プロローグ２ ページ3
周りを見ても、少女に気づいている人はいない。その時、トラックが来ていることに気がついた。少女は変わらない速度で歩いている。
距離はようやく半分まで渡ったというところか。トラックの運転手は、気づいていないらしく、そのままの速度で横断歩道のところに近づいていた。
『っ！ふざけんなよ…！！！」
学生鞄を放り捨て、少女の方へと走り出した。
ドンッッ！！
少女を思いっ切り突き飛ばした瞬間、強い衝撃とともにトラックにぶつかった。そのまま弾き飛ばされて、2、3メートルほど転がった。
薄れていく意識の中で、ようやく通行人達が気づいたらしく、叫び声が聞こえた。
〈やぁ。キミ、いい人だねぇ。わざわざ死んでまでうちの子助けようと走ってくるなんて。〉
幻聴のような声が響いた。聞き慣れた声に似ていたが、そんなことはあり得るはずがないので、心の中で却下した。
誰だろうか、と考えつつ動きにくい体を動かした。しかし、動かすという表現はあっていないとそのあとで感じた。
〈ほら、早く起きて。ちょっと話したいことがあるんだ。〉
気持ち的には起き上がったが、実際には体に変化は起きず、道路に転がっているだけだった。しかし、いつもと視点が違うように感じ、周りを見て衝撃を受けた。
『え、あれ…？俺？』
〈そうだよ。キミはいわゆる魂の分離を体験してるんだ。この体験、滅多にできるもんじゃないから、喜んでいいよ！〉
『うん。喜べねぇ。てか、あんた誰。』
自分を上から見下ろすという不思議な光景に唖然としていると、隣で先ほどと同じ声が聞こえ、幻聴でないのかと思いつつ、しょうがないので話をすることにした。
〈まぁ。聞きたくなる気持ちもわかるよね〜。ボクは黒兎。で、うちの子のアヤメ。〉
黒兎と名乗った痩身の男の後ろにいる少女は、先ほどの助けた少女だった。
『あ、大丈夫だったのか。よかった。』
〈あー…。その、それ、なんだけどね。実はボク達普通の人間には見えないし、触れないはずなんだ。ほら、この通り。〉
黒兎は集まっていた野次馬の1人に近づき、そのまま手を伸ばした。手は突き抜けてしまっていたが、その人は何も感じていないらしく、反応がなかった。その後も、色々なことを野次馬の人にして見せてくれた。
『他の人に見えないし、触れない事はわかった。』
トラックは、少女に気づかなかったのではなく、見えなかったのだ。そして、少女は全てをすり抜けるので気にも止めずに歩いていたのだ。
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作者名：インドア女子 | 作成日時：2019年3月29日 22時
