序章 ページ2
「あ、う……」
腰を動かして、いやらしくねだると背中にキスを落として応えてやる。
その、部下のかな(要)とひな(つばさ)が交わっている様子を、褪めた目が眺める。
気持ち良さそうに喘いで、ふとこちらを見る。物欲しそうな目に薄く微笑んだ。
「かなぁ、ひなまだ足りないってよ」
「えぇ……?」
「っちが、もういらない……!」
面倒くさげに唸り、腰を強く掴む。すると、目に涙を浮かべて首を横に振った。
「やだ、Aさん……っ!」
瞳が丸くて、声が高くて、身長は人並み以上に高い。
巨人といっても過言ではないのに、顔は愛くるしい。そのひなが、嫌だと涙ながらに訴えている。
――ああ、可愛い。
「ひな。もっと囀ずって」
優しい言葉をかけて、冷たく突き放した。
その言葉を受けてやめてくれないと理解し、顔を歪めて嗚咽する。
それすら愛しく感じ、かなに流し目を送る。ごめんねとひなに囁くと、腰を振った。
甲高く喘ぐ声、軋むスプリング、乱れた吐息……噎せ返りそうなほどの熱気に喉を鳴らす。
「はは」
凄く、愉しい――
「……ゆ、ぃ……?」
「……起こしちゃったか、ごめん」
ううん、と掠れた声で呟く。ごろりと寝返りをうち、腰に腕を回した。
黒髪に指を通して、頭を撫でる。まだ眠いのか欠伸をこぼした。
「寝ていいよ」
「うん……膝枕して」
太ももに頭を乗せて、これでいい?と尋ねる。それに頷くと、早速規則正しい寝息が立つ。
「起きたんですね、そいつ」
かなが荒い息を肩で繰り返し、言う。ひなはというと、気を失ったようで力なく床に突っ伏していた。
かなり攻めたのがそれだけで分かり、見たかったなぁと笑う。
短くなった煙草を灰皿に押し付け、口の中の煙を吐く。再び寝た男を見下ろして、
「もう寝たけど。……でも、この様子じゃまだみたいだな」
「そろそろサツが来ます。とっとと思い出させないと、証人として同行を求められます」
「でも思い出せないからなぁ」
「……いっそのこと、殴って走馬灯でも見せてやりましょうよ」
骨を鳴らして、硬く握った拳を見せつける。顔があまりにも動かないもんだから、怖い。
――コンコン、とノックが響く。
もう深夜を過ぎている時間帯だというのに。
「隠れろ」
シーツにひなをくるんで隣の部屋に逃げ込む。その様子を見届け、寝ている男の頭をそっと下ろす。
扉へ向かい、半分くらいまで開け顔を覗かせる。
「――FBIよ、部屋を見せてくれるかしら?」
このとき、俺の世界は既に彩りを見せかけていたのだろう。
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