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7、涙と白髪の青年 ページ8

コツ、コツと小路に規則正しい靴音が響く。
陽が落ちて、横浜は夜の闇に支配され始めていた。




「お兄ちゃん、元気そうで良かった」




Aは誰に話すでもなく呟く。
四年も連絡が取れなかったので心配していたが、今日の様子だとその必要はなかったようだ。



久しぶりに見た兄の姿は、少し疲れているように見えた。
きっと私が側にいない間、色々なことがあったのだろう。




兄が何故教師を辞めて探偵社に務めているのかは、また今度聞けばいい。




「早く帰ってお父さんに夕飯作ってあげないと」




そう言葉にして足を早めようとした時、頬に温かい何かが伝った。




「あ、れ」




目がぼやけて、景色が歪む。
その原因は自分が泣いているせいだと気づくのに少し時間がかかった。




なんで、どうして。
悲しいことなんて何も…




「うっ…っ…」




人通りも車通りも少ない道の真ん中で、Aの涙は止まらない。
所々にある街灯だけが少女を不気味に照らした。




「大丈夫ですか?」




その時、後ろから声がした。
振り向くと、そこには一人の青年が立っている。




暗くても目立つ白髪に、紫色の瞳。
端正な顔立ちの人だ。




「涙、拭いてください」




そう言ってハンカチを差し出されたので、素直に礼を言って受け取る。




「何か、あったんですか?」




青年は心配そうな顔でAを覗き込む。




「あ…いえ、別に…」




急いで借りたハンカチで涙を拭う。




「はは、悩みがある人ほどそう言うんですよ」




青年は優しく笑う。
それから、紫色の目を柔らかく細めて言った。




「僕で良ければ、お話聞かせてください」




いつもなら我慢する。
親切にしてもらっただけの他人に相談するなんて馬鹿げている。
夜道で話しかけてくる人は何を企んでいるか分からないし。




けれど今は、誰かに頼りたくて、この気持ちを話したくて仕方なかった。




Aはコクリと頷く。




「では、この近くの公園に行きましょう」




そう提案した青年の瞳が、一瞬不気味に光った気がしたのは、街灯に照らされていた所為だろう。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 国木田独歩 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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ゆいたろー!(プロフ) - ぺぽんさん» わー!有難う御座います!この作品また見たいと思ってたので嬉しいですッ!! (1月24日 21時) (レス) id: 09168e2c17 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - お相手の作品が削除されたことを確認しましたので、再び公開しようと思います。これからもこの作品をよろしくお願い致します。 (1月15日 17時) (レス) id: a5e819fb1a (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - ゆいたろー!さん» ゆいたろー!さん、申し訳ありません。悩んだ末、二章以降を非公開にすることを決めました。こちらを読んでくださる人もいることは重々承知していますが、このまま盗作され続けるのは嫌でした。 (1月10日 18時) (レス) id: a5e819fb1a (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - ゆいたろー!さん» 完結した後でも作品を読んでくれている方がいるのは、とても嬉しいです。作品を書き続ける活力になります。これからもこの作品をお楽しみください。他にも作品を投稿しているので、お時間があればそちらもぜひ。 (1月10日 17時) (レス) id: a5e819fb1a (このIDを非表示/違反報告)
ゆいたろー!(プロフ) - いえいえ、お役に立てて光栄です。これからもこの小説楽しませていただきます (1月10日 17時) (レス) id: 09168e2c17 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぺぽん | 作成日時:2022年5月7日 15時

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