雪解け水19滴 ページ20
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チリ、リリン…………
普段より厳かな鳴り方で、ドアは開いた。
ファイルを見返してその頃に浸っていた真っ白な意識がその音で呼び覚まされる。
顔を上げるとその白に光沢を足したような、高級感のあるスーツを身に纏った男性。
「……明智さん。お久しぶりですね」
「こんにちは」
優しげな笑みを浮かべる明智さん。
……キラッキラなエフェクトが見えるのはきっと気のせいだ。うん。
「髪、切ってしまったんですね。」
「それ、会う人皆に言われます。大層な意味がある訳じゃないんですけどね」
「失恋でもしましたか?」
「デリカシーって言葉ご存知です明智さん」
めっちゃ真っ正面から聞いてきたぞこん人
むしろ清々しいくらいの図々しさ。
「……したっちゃしましたけども」
「……」
私のおやつのチョコチップクッキーと、カウンターの足元に置いてある小さめの冷蔵庫から取り出した紅茶のペットボトルとカップを持っていく。
「こんなんで申し訳ないっすけど」
「いえ」
カウンターに戻って、注文表の整理をしだしながら口を開いた。
「……愛想尽かされたんですよ、一緒に住んでたけど少し前に家出ていかれて」
隠す部分が多いだけの真実を伝える。
その男のことまで長々話す必要はない筈だ。
「……そうなんですか。」
少しの間が流れた後。
「佐賀美さん。
私の所に、来る気はないですか?」
「え?」
不意に手を止めて聞き返した。
口ごもりながら明智さんが続ける。
「……貴女は近宮さんの娘のような存在で、彼女自身私にとって大切な友人でした。
その、抵抗があるかもしれませんが、あまり一人にしておくのは忍びないというか……」
普段の彼らしからぬ言葉の濁しように思わず笑みがもれた。
口を抑えるも笑いは止まらない。
作業の手を完全に止めると、後ろに反り返り空を仰いだ。
疲れきった両目に手の甲を乗せる。
「あー……や、ごめんなさい。
明智さん、目の前に宇宙人いても動じないってくらい何時も冷静沈着なのに私ごときのことでそんな狼狽えてるから面白くって……」
声を最大限殺して笑い転げる。
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camellia(プロフ) - すぃさん» ありがとうございます! SideStoryの方もよろしければお願いします! (2019年10月20日 12時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
すぃ - 面白かったです! (2019年10月20日 11時) (レス) id: 045c20b509 (このIDを非表示/違反報告)
camellia(プロフ) - シリウス1315さん» ありがとうございます!! ストーリーは途中途中色んな方向に飛んでってしまってましたが、なんとか終わらせられて良かったです。次回作はもう少しお待ちくださいすみません() SideStoryもよろしくお願いします! (2019年8月22日 7時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
シリウス1315 - 完結おめでとうございます!ストーリーも読み応えがあって、とても面白かったです!毎回お話更新を楽しみにしながら読ませていただきました。SideStoryおよび次回作も頑張ってください!応援してます! (2019年8月22日 2時) (レス) id: ff0fc740f2 (このIDを非表示/違反報告)
camellia(プロフ) - シェリーさん» 遅れてません、大丈夫ですよ。2回も労いのお言葉こちらこそありがとうございます!!!SideStoryに乞うご期待です!!! (2019年8月17日 22時) (レス) id: 24ff41186f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:camellia | 作成日時:2019年7月19日 17時