閑話其の参:鬼の目にも■■ 続 ページ1
…水の中にいる様な、ぼんやりとした意識だけがゆっくりと浮上する。小さな話し声と物音が鼓膜にほわり、と反響して、照の切れ長な目が虚ろに開く。
…此処は、何処だ。
まとまらない思考が、主張し始めた後頭部の痛みと共にぐるぐると頭を回る。未だはっきりしない視界に、ふと影が動いた気がして咄嗟に瞼を閉じた。
高下駄のことり、ことりという固い音が少し近づく。集中しよう、と耳を傾けると、鬼の優れた聴力は微かな会話を聞き取った。
「…やれやれ、何で俺達が見張りなんて…話によっちゃ彼の妖、巷じゃそこそこ名の知れた奴なんだろう？暴れでもされたら俺たちじゃ到底敵いっこないだろうにな。」
「まぁ仕方がないだろ。頭領の話じゃ、此処からが大変だと。見張りくらいで済んだんだ、寧ろ感謝すべきかもな。」
「…大変な仕事…嗚呼、『傀儡』の話か？」
「ああ。何でも、此の岩本、とかいう鬼、良家の生まれらしい。妖力が桁違いで、尚且つ剣術も体術も達人並み。ともすれば、術をかけてでも手駒の一つにしたい、というのが頭領のお考えなのだろう。」
其の言葉に、一気に脳が覚醒する。幾ら考えても、今の話は明らかに自分の事を指していた。
目の前で繰り広げられる不穏な会話に、思わず照の奥歯がぎり、と小さな音を鳴らす。
手駒になる？とんでもない。死んでも誰かの下なんてごめんだ。俺の、俺らの居場所はあの家だけなのだから。
腕を動かそうとして、漸く自分の手が鎖で天井から吊るされていることに気が付く。背中に冷たい感触がある、ということは、壁際なのだろう。ならば足は、と音を立てないように小さく引くと、くんっ、と引き戻される感覚。
照(…御丁寧に鎖で縛ってやがんな…ぶった切って逃げるってのは、現実的じゃねえか…)
じわじわと熱を持った痛みが頭に広がりはじめて、小さくため息をつく。今行動を起こすのは得策じゃない、と、情報を集める方へ集中することにした。
「…でも、今も彼奴は妖術使えないようになってんだろ？こんな厳重にする必要あんのか？」
「…さあな。頭領は慎重なお方だ。念には念を、というやつじゃないか？…儀式は夕刻だ、それまでに何かが起きては、とお考えなのだろう。」
『儀式』という言葉に、思わずぞっとする。とはいえ、言う通り妖術は使えそうもないし、腰に重みがないのを見るに、刀も取られたようだ。
…さて、どうするか。小さく覗いていた紅を再び閉じて、照は打開策を脳内で考え始めた。
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あゆ(プロフ) - 定期的に読み直しさせて頂いてるのですが、めめこじが好きなので橙玉ト虚空ノ暗黒の続きも楽しみにしています！無理のない範囲でいつか更新して下さったら嬉しいです。 (2021年10月23日 11時) (
レス) @page14 id: 6ef3ec4d5d (このIDを非表示/違反報告)
莉月(プロフ) - あゆさん» あゆさん、コメントありがとうございます！読み返して頂けるだけでもありがたいのに、定期的になんて…作者冥利につきます！これからもどうぞよろしくお願いします！ (2021年10月8日 7時) (レス) id: bc0aa38375 (このIDを非表示/違反報告)
莉月(プロフ) - ユウさん» ユウさん、コメントありがとうございます！そう言っていただけると嬉しいです…！ゆっくりですが、楽しみにしていただけるのなら頑張りますね！ (2021年10月8日 7時) (レス) id: bc0aa38375 (このIDを非表示/違反報告)
莉月(プロフ) - 千夜さん» 千夜さん、コメントありがとうございます！待ってていただけたなんて嬉しい限りです…！少しずつですが更新するので、よろしくお願いします！ (2021年10月8日 7時) (レス) id: bc0aa38375 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - 定期的に読み返していたので更新嬉しいです！一気にでも1話ずつでも、無理のないペースでの更新お待ちしております〜！ (2021年10月8日 1時) (レス) @page15 id: 6ef3ec4d5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：莉月 | 作成日時：2021年3月7日 9時
