第三十八桂 ： それは悪夢か、現実か。 ページ41
―――暗い。
酷くひどくうど暗い。
聞いたことなど何度もあるはずの声なのに
その姿はまるで影のように黒く
靄がかかったようになにも思い出せなかった。
(・・顔が、思い出せぬな)
「誰であったか・・・この声は」
暗い、くらい。音のない世界だった。
差し込んだのは、白く眩しい明かり。
「・・三日月」
そこにあったのは闇の中で聞いた声ではなかった。
「・・おお、研修生」
きっと誰よりも忘れ得ない
ひどく愛しく欲しがった声だった。
「・・研修生、どうした、何故そのような顔をする？」
眉を寄せ、唇はまるで怯えるようだった。
「そうか、こわいのか、ならば俺が共にいてやろう、
さすれば恐怖など、微塵も感じはせぬだろう？」
「・・俺に、触らないでくれ、」
「・・・ 、はて？」
伸ばした腕は軽くかわされ、
掴みそこなった少年の身体は大嫌いな白銀にさらわれた。
「・・あんたの、手入れは俺がする。
けど、俺に近付くのだけはやめてくれないか・・
ここにいる刀剣が、俺への視線をとがらせるからね」
少年の、言っている意味が分からなかった。
「・・何故、触れてはならぬ？
手入れを、してくれるのだろう？
研修生、研修生、のう、だって、お主は、」
―――あれ？
そこまで口にした三日月の脳裏に
彼がはじめてここに来た日の景色が蘇る。
「・・あれ、おかしいな、研修生、お主、何故研修生なのだ？」
「・・なに・・？」
「そういえば、お主の荷物は酷く、少なかったな？
なぜ、何故・・ ――ここに、住まうのであろ？ 荷物が少なくはないか？」
「・・何を、言ってるんだ・・？ あんた・・」
少年の目が見開かれ、
背後にいる二振り――名前も覚えてはいないが、付喪神が驚愕していた。
「・・けん、・・」
研修生、と呼びかけようとして、
はっとした三日月は消えかけの記憶を絞りだす。
―――今日から研修に入るのよね。
―――半年だったかしら
――― ・・ええ、予定では
(あれ？ はんとし・・？)
三日月は頭を抱えた。
前髪を掴み顔を覆うその指先は、
彼がきた当初と、変わらぬ美しさだった。
・・・当初？
「・・お主、ここへきてどれだけに、なった・・？」
「・・一週間を過ぎたところだよ・・」
半年。
その文字が、言葉が、
あの声で、あの音で、
耳障りな響きで、―――重く、のしかかる。
――そうだ、彼は、研修生。
ここへ来た役目を終えれば。
「・・はなれ、て、しま、う・・？」
―――俺の、傍から？
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
