第二十九桂 ： 世話 ページ32
羽織を一枚手に取って、誰もいない廊下へと出る。
虫の声ひとつしないこの本丸で、桜夜は食堂への道をひた進む。
そして与えられていた部屋から中庭へと降りた時。
桜夜は驚愕に目をまたたかせた。
「・・な、」
中庭の中央で天の月をうつす池。
畑につながる生い茂った木々の一番手前。
水浸しの三日月宗近が、そこへ転がっていた。
「何やってるんだ・・！」
駆け寄って三日月の身体を支える。
三日月は一ミリも反応を示さない。
「・・・っ」
更に近付いて、二度、頬を叩いた。
ふいとまぶたがあげられる。
「・・おお、研修生」
あまりにものんきな反応だった。
「あんた、こんなところで何やってたんだ・・
ずぶ濡れじゃないか・・」
上半起き上がるやいなや、
三日月はたっぷりと水を吸った袖口を重そうに持ち上げた。
「お主の部屋を、探しておったのだ」
ひやりとした指先が桜夜の頬へと宛がわれた。
三日月はその頬を持ち上げ、視線を合わせようと試みる。
「・・っつめ、た、・・！」
しかし桜夜は添えられた三日月の指先をはらう。
「・・俺は、どうすればいい？」
「・・なに？」
「ずぶ濡れになってしまった。
しかし俺は、どうすればいいのかわからないのだ」
「・・何言ってるんだ・・？」
立ち上がった桜夜を前に、
三日月もまた、よろよろと立ち上がる。
「わからぬのだ研修生よ。
俺が何かをする時は、誰かが必ず傍に居る。
こんな時、俺はどうすればいいのかがわからない」
「・・・」
茫然とした。
なんの悪意も感じない表情だった。
―――この男は、本当にわからないのか。
「・・俺の部屋に来て」
鍛刀部屋は使えない。
自分の部屋で、彼の着物やその身なりを整えよう。
＊＊＊
部屋の中で起床していた左文字は、
桜夜が連れて来た徘徊刀剣を見て茫然とした。
「・・とりあえず、服を変えないと・・ね・・？」
「・・・」
左文字は頭を抱え、隠しもせずに溜息を吐き捨てた。
「呆れました。
貴方にではなく、そこにいる徘徊刀剣の主に」
「・・自分の近侍がいなくなっていることにも、気が付かないとは・・」
様子の変化に敏感に目を覚ました小狐丸も、呆れとともに口を出す。
「・・とりあえずこれ着て・・なんであるのかしらないけど」
右手に三日月の内番服らしい一式を持って、左手には数枚のタオルを持つ。
桜夜の言葉におお！と水しぶきを飛ばしながら三日月が立ち上がった。
「頼むから！
静かに着替えてくれ！」
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
