【薫衣草】*____中原中也 ページ13
【お伽噺の森のような】
ヨコハマの夜を支配する、ポートマフィアの幹部、中原中也。最近の彼を振り回すのは、尾崎紅葉の幹部補佐である中里A。
異能力者で、能力名は“みがかヌかがみ”。糸を操り、運命を変えることができる異能だ。かなりといっていいほどに危ない力。
彼女は未だに、その能力をコントロールできていない。同期である芥川の指導でAは日々、懸命に練習に励んでいるが……。
「……はァ」
かれこれ一時間。中也は深刻な面持ちで悩んでいた。それは、異能訓練を頑張っている彼女への差し入れ。一時間も店の中にいる。
なんせ中也は現在、Aに絶賛片想い中なのだ。やはり差し入れ一つ、せっかくのチャンスなのだから迷い迷ってしまう。
「大体、彼奴は何れが好きなんだよ……」
紅茶を好きだ、とは紅葉から聞いている。だが、正確な品名は聞いていないのだ。否、聞いても教えてくれなかったのだが。
理由は、中也が選んだものであれば、何だって喜んでくれるの一点張り。棚にある茶葉の缶に手を伸ばすが、また引っ込めた。
「……はァ」
「どうかしましたか?」
「うおっ……って芥川かよ」
「はい、芥川です」
音もなく現れたのは、芥川龍之介。その手の中には武器……ではなく、ティーバッグ。意外な買い物に、中也は首をかしげた。
「手前、そんな趣味があったのかよ」
「……?」
「いや!!だからそれだよ、それ!!」
「……嗚呼、コレですか?Aに褒美でも、と。ねだられたものを買いに」
そういえば、彼奴。最近、操作能力が飛躍的に上がったから、芥川にご褒美を貰うとか云って喜んでたような気がする。
「……へェ、彼奴はこんなんが好きなのか」
「……。僕めはここで失礼します」
「おうよ」
去っていく芥川を眺めながら、溜め息をつく。芥川が贈るなら、自分が贈っても仕方ない。ましてや茶葉ではなくティーバッグ。
微妙に違ったところで、紅茶なのは同じ。Aは好むのは茶葉ではなかった。この条件が揃えば、差し入れを断念しようと思う。
店を後にするつもりだったのだ。そう、だったというのに。爽やかな甘くしつこいアイスティーの香りが、目の前に広がった。
『あれ、中原幹部……?』
「……A?」
お伽噺の森の中に迷い混んだ王子が、塔の上の姫に出会うように。アンティークな紅茶専門店で、幹部は美しい乙女と再会した。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年8月13日 14時