【鈴蘭】*____中島敦 ページ2
【初恋日和】
『あの…____』
鈴のような声に思わず振り返った。真っ白なスカートを揺らした女の子。幾分か幼い顔立ちは、まだ少女に分類されるだろう。
「え……?」
『落とし、ましたよ』
柔らかな微笑みを浮かべて財布を差し出した彼女に、うっとりと見とれてしまった。強めの炭酸を勢いよく飲んだ感覚がする。
シュワっとした炭酸が、美味しくて。少しだけ辛いような。それが甘いような、苦いような。180度回転してしょっぱいような。
「え、あ、ありがとうございます!!」
『いえ、当然のことですから』
「何か、お礼でもさせて下さい!!」
『……じゃあ、一つだけ良いですか?』
長い睫毛にふちどられた瞳がそっと、優しい眼差しで敦を射抜いた。嗚呼、これってもしかして。初恋ってやつなのかもしれない。
『うずまき、という喫茶店を知りませんか?待ち合わせをしているんです』
「ちょうど僕もその上の階に行く予定なんです!!是非、案内しますよ」
『助かります……!!』
「いえいえ」
軽く雑談をしながら、横浜の街を進むこの日この頃。ある少女に芽生えた感情は、ある少年と同じものだったとは。誰も知らない。
(あの、ちなみに待ち合わせというのは……)
(友達にノートを借りる予定なんです)
(彼氏、とか?)
(いいえ、生まれてからお付き合いしたことなんて一度もないんです)
(……そっか。良かった)
(……何か言いました?)
(いえいえ!!何も!?)
【鈴蘭】 純潔、幸福が訪れる
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年8月13日 14時