漆黒の禍狗はパパになったようです

思い出　4 ページ8

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樋口side

「ーということがあったんだよ。」

「…そうだったんですね…」

A先輩から、一通りの話を聞き終わり、私は何とも云い様の無い、不思議な気持ちになっていた。

仕事では、微塵の慈悲も無く、敵を尽く殲滅する芥川先輩も、我が子の前では、喜び、悩みながらも子供と共に成長していく一人の"親"なのだということ。

「勿論、私だって、今だにあたふたしちゃうことも沢山あるけどね」

そして、其は今目の前にいるA先輩も同じ。

確かに、愛しさの籠った眼で夫と愛娘の話をする其の顔は、何処かに芯のある"母親"の顔をしていた。

「治春、そんなに速く進むな!」

「きゃー！」

突然、芥川先輩が、息を切らしながら隣の部屋から出てきた。

其の先では、治春ちゃんが、芥川先輩の黒外套を被った儘、結構な速さではいはいをして進んでいた。

はあはあと先輩が息を切らしている隣で、治春ちゃんはずるずると外套の下から這い出し、ぽふ、とソファに手を着くと、次の瞬間、

ぷるぷると震えながらも、掴まり立ちをした。

「…龍!見た？今…」

「嗚呼、見たぞ…」

「掴まり立ちした！」

芥川先輩が、治春ちゃんを抱き上げると、治春ちゃんは、先輩を見て、

「あー、う！ぱ…ぱぁぱ！」

と云ったからもう、其からは、芥川先輩は感極まって涙ぐみ、A先輩は優しく笑いながらも治春ちゃんの頬をふにふにとつつき、
治春ちゃんが一層嬉しそうに笑う、

という、眩しい位に幸せな光景に、私も思わず頬を緩めつつ、密かにカメラのシャッターを切ったのだった。

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