113 ページ17
「朝、相手を見送るのなんて初めてだな」
いろんな経験をしてきたであろうこの男の
意外な初めては私らしく
悪い気はしない。
「鍵、返そうと思ってたけど。
もう少し持っておくわ、また使うことになるかもしれないから」
目の前にチェーンを摘まんでぶらつかせると
男はククッと笑う。
「それ。誘ってんの？」
「ここに来ればすぐ飛んでくるんでしょ？」
「プレッシャーだな。
この女王様には遅刻は許してもらえないらしいから」
エレベーターの前
上に上がってくる階数を目で数えていると
男の手が私の髪に伸びる。
「…待ってる」
端正な顔に微笑みを浮かべると
男はゆっくりと私に顔を近付けた。
唇を食むゆっくりとしたキスは
じわじわと私の心に熱を帯びさせる。
気持ちよくて
離れられないキス。
この男はやっぱり
罪な男、だ。
「エレベーター、来たな」
「…そう」
名残惜しい。
だけど
きっとここですがれば
この男をがっかりさせることになると思った。
到着して開く扉に乗り込むと
私は平静を装って「じゃ、また」と言った。
ドアが閉まれば
途端にその場にしゃがみこむ。
顔が熱い。
朝から愛された身体にはまだ余韻が残って
…どうしよう、私、ハマってる。
離れたこの瞬間から
また会いたいなんて思うなんて。
私は掌に握り締めた"魔法の鍵"を鞄に大切にしまい込んだ。
これさえあれば
またあの男と会える。
だけど。
翌日も
さらに次の日も
１週間経とうとも
あれからぱったりと姿を見なくなった。
鍵も二度ほど使った。
けれど朝になっても男は現れることはなく
ただ、ただ
残されたものは私の心にざっくりと刻まれた爪痕だけだ。
これが男の作戦だとしたら
あなたの完全勝利だわ。
嘘つきだと罵ってやりたい思いよりも先に
早く私の前に現れてほしいと懇願する。
夜の街を歩きさまよって見ても
それらしい男は見かけなくて
さらに私の想いは募るばかり。
直人の誘いも
健二郎くんの誘いも
受ける気にはならなかった。
あれほど駄目だと律してきたのに
私は馬鹿だと思うけど
もう遅い。
もう一度言う。
これはあの男の完全勝利。
彼に逢いたくて、おかしくなりそう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2334人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひろみ - 私も臣大好きなので、キュンキュンしながら読みました。どうなるの？とドキドキで、途中でやめる事ができず、夜中までかかって一気に読ませて頂きました。 (2017年4月2日 2時) (
レス) id: e9c7ef6696 (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - 3~しかないんですかね??間違ってたらごめんなさい (2017年1月8日 15時) (レス) id: 811aaed8b2 (このIDを非表示/違反報告)
あんな(プロフ) - 毎回毎回キュンキュンしながら見てます！！ (2016年9月19日 0時) (レス) id: 16f1420843 (このIDを非表示/違反報告)
maimai(プロフ) - 続きが気になりすぎます(*^^*)！NEEさんのお話大好きです＼(^^)／NEEさんのペースで大丈夫ですので、無理せず更新お待ちしております(*^^*)！ (2016年5月22日 10時) (レス) id: 31f7cf4807 (このIDを非表示/違反報告)
maimai(プロフ) - あとさんと同じく！隆二くんに触れられてるところを見て、臣にいろいろ大切なことに気づいて欲しいです(>_<) (2016年5月22日 10時) (レス) id: 31f7cf4807 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NEE
| 作成日時：2016年4月14日 22時
