mission 10 ページ10
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「金なら、あります」
取り出したのは、１枚のカード。
クレジットカードなんだか使ったことはない。
でもこんな俺でも、聞いたことくらいはある。
「プラチナカード……マジかよ」
ざわつくのが分かった。
たぶんここにいる人たちは、俺が金持ちじゃないことくらい判断できる。
そりゃそうだ。これは俺のじゃない。ある人からパクった物だ。
「……そ。どうせ客になっても酒すら飲めないこと分かっててやってる？……二度と来るなよ」
あいつはホストたちが囁き合うのに目もくれず、俺とカードを一瞥して立ち去った。
後になって残ったのは、溜まった疲れと憤りだった。
「そろそろ開店の時間だよ。どうしようか、君のこと」
「俺は……どうしよ」
「はははっ。面白いじゃん君。名前は？」
「八乙女……光」
「そっか。じゃあ光。No.1を差し置いて言うのもあれだけどさ、俺らの中から好きな奴選んでいいよ」
「…………は？」
知らなかったのは俺だけだったらしい。
なんせここは、誰彼構わず抱いてくれる高級風俗店だったんだから。
「今なら出血大サービス。無料にしてあげる。だったらそのカード使わずに楽しめるだろ？」
「そ、そうですけど」
俺の耳元で高木という男が囁いた。
「なに。
誰かから盗った金使える度胸あんのかよ」
一段と声を落として、まるで獲物を見つけたハンターのような瞳で俺を見た。
鳥肌が立った。体は固まって、前も後ろもごっちゃになって。
それでも思考が停止しなかったのは、目的のあいつが来たからだった。
「きょ、今日は帰ります。だから……」
「だから？」
「わ、笑ってって。笑ってくださいって、伝言お願いします」
「ふーん……分かった。気をつけて帰りなよ」
本当に伝えたいことはなんだったのか。というか本当は、何者か知りたかっただけなのかもしれないけれど。
どうしてあいつを追っていたのか、もうそんなのどうでもよくなって。
握りしめたプラチナカードも。
淡く色づいたネオンも。
家に帰らなかった口実も。
全部全部、なんでもよくなった。
今はただ
「同じだ……俺と」
とても安心した。
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作者名：柊 | 作成日時：2018年10月12日 19時
