37.玄関口 ページ37
午後六時、兵士に挨拶をして手続きを行い、基地の門を潜る。営業は四時半までと決まっており、後片付けや清掃を済ませて帰ってくればこの時間だ。
「あ、Aさん」
「ショッピ様、お疲れ様です」
「っす、仕事終わりっすか？」
「はい」
ちょうど通りかかったらしいショッピさんと目が合って、お互いに苦笑した。部屋に戻るところだと言うので半歩後ろを着いていきながら言葉を交わしていると、彼はふと、あ、と小さく声を漏らした。
「そういや、チーノさんからフルーツサンド貰ったんすよ」
「そういえばお買い求めでしたね、ショッピさんの分だったとは」
「余ったらしくてお零れだったんすけど、美味かったっす」
「それは良かったです」
「甘党二人が物凄い食いついてましたよ」
「え？」
なんとなく目星はつく、が。嫌な予感を押し隠してショッピさんの顔を見上げると、彼は変わらぬ無表情で、グルッペンさんとオスマンさんなんすけど、めっちゃお気に召したみたいで、なんてつらつらと喋っている。
あまり、距離を詰める要因は作りたくないのだけれど。
「トントンさんが絶対脱走すんなよって言い含めてましたけど、多分無駄っすね」
「あのお二人、脱走なさるんですか？」
「はい、甘いものが足りなくなるとどんだけ仕事詰まってても逃げ出すんすよ」
「それは……また、トントン様の胃が心配ですね」
「ええ、ほんとに」
脱走してパン屋に来られたりしたら、下手をすれば私のことがバレる。彼らがそんなヘマをするわけがないとは思うし、自分の演技にもある程度自信はあるが、問題は彼らがわざと私の存在を知らしめようとした場合だ。まさか暗殺任務を任せる人間をそう公にするとは思えないが、世の中には、外堀を埋める、なんて言葉がある。
「……俺も」
「？」
「俺も、脱走して買いに行きたいくらいには、美味かったんで」
「……お休みの日か休憩中に、どうぞ？」
「ははっ、そっすね」
焦った。
窓から差した夕陽を受けた瞳が、まるで宝石みたいにきらきらと輝いてこちらを見つめるものだから、思わず返答が遅れた。一体何を試されているんだろうか、チーノさんに引き続きショッピさんまでとは。
軽い笑い声に合わせて微笑むと、そのままの調子で彼は言った。
「夕飯、ゾムさんがAさんの隣に座るんだって息巻いてましたよ」
「……それは」
「食害になんないといいっすね」
「……」
「俺の隣、来ます？」
「……お願いします」
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
