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「私、ですか」
「店員さんじゃなくて、Aさんの好みです」
「……レモンロールですかね」
初めて出勤した日に貰ったパンだ。こんなものがあるのかと驚いたな、なんて思い返していれば、チーノさんは楽しそうに笑って言った。
「じゃあ、それは俺用に買ってみます！」
「はい、美味しいですからぜひ」
微笑んでそう返すと、彼は何だか楽しそうに売り場に向かって行く。ウィンナーパンにコロッケパン、カレーパン、シチューパイ、チョコフランス、他にも幾つかの種類を二つずつと、それからフルーツサンドを三つ、レモンロールが一つ。
とんでもない量だ、これがおやつと言うんだから恐ろしい。
「これお願いします」
「はい」
会計を進めていれば、じっとチーノさんがどこかを見つめているのに気がついた。そっと視線の先を追うと、カフェスペースのテーブルを拭いている奥様の姿。
そういえばこの人、熟女好きだったな。
「……奥様には旦那様がいらっしゃいますよ」
「……マジですか」
「はい」
「えー、残念だな……」
わりと真剣な声音で言うのはやめてほしい、微妙な気持ちになる。勿論奥様は美人さんだし、そういう趣味を否定する気は全くないけれど、このご夫婦は本当にお互いを愛し合っているのが見て取れるから。
「俺悲しいです、慰めてください」
「御冗談を」
「……本気で言ってるとしたら？」
ふ、と雰囲気が変わったように思えた。山吹色の美しい瞳が、じっとこちらを見据えている。
「最近、仕事とか上手くいかなくてきついんですよ」
少し掠れた声で瞼を伏せながらも、視線はこちらに向けたまま。整った顔立ちは憂いに満ちていて、何だか手を伸ばしたくなるような雰囲気だ。
「そういった台詞は、チーノ様のお眼鏡に適う素敵な女性に仰ってください」
その瞳を真っ直ぐに見つめ返し、微笑みながら値段を告げる。
一拍置いて、彼もまた笑い混じりに、振られちゃいましたね、なんて言いながら紙幣を出した。軽く試されたんだろうな、と思いながら会計を済ませ、お釣りを渡す。
本気でハニトラの系統を試すつもりなら、鬱先生の方を寄越すだろう。チーノさんはどちらかと言えば、緊急事態を装うような試し方の方が似合っている。
「それじゃ、また後で」
「はい、また」
「レモンロール楽しみにしてますね」
「よければ感想をお聞かせください」
「任せといてください！」
両腕いっぱいの紙袋を抱える彼の後ろ姿に、思わず小さく笑ってしまった。
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
