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それを察しながらも、諸事情によってお金が必要であった私はそれを引き受けた。とはいえその諸事情も最早解決してしまったので、本当は無理だと断ってもよかったのだけれど、一度引き受けた以上はとここの警備体制やら諸々を調べ上げ、不当な手続きをしてくれたおかげで楽に入国し、ごく普通の町娘として働きながら数ヶ月様子見をして、今日、夕闇が辺りを覆い始めたところで城に潜入を果たしたわけだが。
誰も気がつかないうちに総統室に辿り着き、天井裏から飛び降りた直後、彼の首を掻き切るまであと三秒といったところで、まるで走馬灯のように前世の記憶が頭の中に溢れた。
結果として時間にして恐らく一秒もかからずに私は自分が転生し、前世の推しに刃を向けようとしている事実に気がついて。着地と同時に手に持っていたナイフを投げ捨て両手を上げて降参の意を示しながら、重ねて言うが同じく推しであるトントンさんに引き倒されたと、そういうわけである。
いやどういうわけだよ。
知らんがな、とセルフツッコミにさらにセルフツッコミを返しながら、書記長さんの冷たい瞳を見つめ返す。途端歪む表情に危うくぞくぞくしてきそうだ、前世を仕舞え私。
「答えろ」
「……私に答えられることなら」
「！ ……どこから、入ってきた」
「正面玄関の塀の端にある、庭師用の扉からです」
「ここまでの経路は」
「天井裏のダクトを使いました」
「目的は」
「総統グルッペン様の暗殺……でしたが、今ここで変わりました」
「は？」
推しに殺されるなら本望というやつかもしれない。嘘だ、本当は死にたくなんかないけど、依頼を達成出来ずに各国から刺客を送り込まれるよりは余程ましだ。色々と秘密を知りすぎている私が無能だと判断された時、待っているのは死だけなのだから。
トントンさんを見上げていた無表情をゆっくりと動かして、柔らかく笑ってみせる。彼の瞳は真っ直ぐに、冷酷にこちらを見据えている。
「私を、観光客として処理していただけませんか」
「……理由は」
「このままでは、大切な人をこの手にかけなければならないのです」
総統閣下、貴方様は、私の恩人なのです。
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
