擬似恋愛【鶴丸国永】 (ページ1)

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しろ、と思わず口に出した。捨てられた猫みたいに背中を丸めて、彼は俯いている。屋上へと続く階段のてっぺんでドアノブに手をかけたまま。

「ねぇ、きみ、白い人」

彼を喩える言葉が見つからなくて、迷った挙句に口にしたのは目を引くような白さ。異様なその色に懐かしさすら覚えてしまう。……懐かしい？そんな馬鹿な。私は彼の姿を認識したことなんてないんだから、懐かしいなんて思うはずがない。

ゆっくりと彼が振り向いた。白髪から覗く琥珀色の瞳が私を捉える。射抜くような眼光に、一歩退く。

彼が動くのに合わせて白い髪が光を反射する。きらきらと様々に色を変えて揺れるそれに思わず見蕩れた。

「きみ、＿＿」

零れた言葉の端は聞き取れない。ただ憎しみを湛(たた)えた瞳が大きく見開かれたのはわかる。どくりと心臓が音を立てた。私は彼を知らない。でも、器は、私の身体は確かに彼を知っている。

既視感にも似たそれをどうやり過ごせばいいのかわからないでいると、今まで死にかけの猫のようだった彼がやっと人間らしさを覗かせた。

「あぁ、そうか」

笑ったのだ、彼は。とろりと蜂蜜が零れ落ちたかのような錯覚。実際には目を細めただけだったのかもしれないけれど、とにかく彼の器は喜びを全身で表現しようとしていた。

随分と綺麗な顔をしているじゃないか。口に出そうとしてやめた言葉は喉の奥で引っかかっている。

……