WESTボツネタ集

《赤》二度と会えない１ ページ5

〆．



いつもの食卓。



美味しそうなご飯が並ぶ。



向かいには父と母が座っていた。



いつもと違うのは両親の表情だけだ。



そのたった一つの違和が、私の命の終わりを告げていた。



「みんなで、死のう」



父の経営する会社が傾き始めたのは最近の話ではない。



数十人の従業員を養えなくなり、返せないほど多額の借金をし、世間からも白い目で見られて。



いつかこうなると予想していたし、死を選ぶのも仕方のない話だと思う。



私は大人だった。



ここで抵抗することもできた。



だけど、しなかった。



私は子供だったから。



「うん、わかった」



お父さんやお母さんのいない世界に生きるのは怖かった。



みんなで、逝くんだ。



「大毅くんには悪いことをしたな」



「ええ、何度か来てくれていたんだけど…」



「A。ちゃんとお別れしておきなさい」



「………うん」



ケータイを取り出す。



『次のデートはどこ行こっか？』

『海行こや！人おらなさそうやし〜』

『いいね！』
『あ、晩ご飯の時間だからまた後で！』

『はいはーい』



メッセージはそんな会話で途切れていた。



つい数分前のやり取りだ。



何も考えなくても、指が勝手に動いた。



『もしもーし？』



人生の最後に聞く、愛しい声。



「もしもし、大毅くん？」



『大毅くんやでー？どした？晩飯は？』



何も知らない明るい声に、私は何度も幸せをもらってきたんだっけ。



〆．

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