酒場のマスターはトリッパー II

71杯目 ページ25

「全く腑甲斐無いねぇ、妾の能力が無きゃ今頃揃って土の下だよ」

ここは探偵社。

敦達は組合から受けた傷を治療し終えたところだ。

「少し出る」

「でも、今外出は・・・」

社長は勢いよくドアを閉め、探偵社から出ていった。

「ありゃ相当鶏冠に来てるね」

「ところで与謝野医師、マスターはどこに？」

国木田が与謝野に聞く。

「あんたらが出た直ぐに急いで帰っちまったよ。何だか泣いてる風だったよ。
まだ安静にしといた方がいいんだけどねぇ」

「そういえばあの時病室には太宰もいたねぇ」

「何っ!? 太宰の奴また店主に何か失礼を・・・！」

「まっ、今回は太宰の不器用さが原因だね」

乱歩が淡々と述べる。

「マスターも太宰も、何が正しいのか、どう表現すればいいかわかってないから困惑しているんだ」

「乱歩さん？」

「正解は自分自身で見つけるしかない。
きっとそのきっかけをくれる人はいる」

(僕もそうだったからね・・・)

椅子に腰掛け窓の外を眺めるその後ろ姿は何だか寂しそうに見えた。

「マスター、我儘でもいいんだ。それが君の求める愛ならば」

72杯目→←70杯目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す