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+95+鮮明に ページ48

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意識がそちらに奪われ少し歩くペースが遅れてしまったかもしれない。



暗い空を2秒くらい眺めて、ハッと意識が花火から離れた


それと同時に革靴が地面とぶつかりあって生まれたカツカツ、という硬い音
先程まで花火の音に紛れて聞こえていたそれが止んでいることに気がついた

空から視線を外して音の発生源だったはずの恭弥さんの方を見れば
数歩先で立ち止まり、こちらを見ていた


『あ…、すみません。』


謝罪をして狭い歩幅ながら駆け足で恭弥さんの半歩後ろに寄る。


先程から意識が散漫としているな…。
そもそも今日はひったくり犯の検挙を目的とした仕事で付いて来てるのに

自分らしくもない、この散々な体たらくに呆れてしまう。
恭弥さんに聞こえるか聞こえないか位の小さい溜息が自然と出た。



「花火、好きなの?」



突然の問いかけに思わず『…え?』と気の抜けた声が零れた

視線を少しあげて恭弥さんと目を合わせれば
特にいつもと違いなく、ただ漠然と気になったから聞いたという様

好きか、嫌いかで言われたら好きなのかもしれない。
なにぶん、記憶がはっきりしている範囲でちゃんと見たのは初めてだ。


好きとか嫌いとかそういうのって
幾度かの経験の末に決まるものなんじゃ…



『たぶん。魅力は凄く感じています
今は好き嫌いよりも誰かが傍に居て、これ見た事に感動してます』



これは本心。

日頃から曖昧な思考しかできない私だけど
これはちゃんと私自身が思っている事だし、自覚出来ている。



『先程5分としない時間彼らと見た事も
今、帰り道たまたま貴方が待って下さったから見えていた景色も

全てが美しく、華やかなものに見えて…
感性が欠如しかけている私ですら魅了されてしまいました。』




日頃使わない表情筋が緩んだ気がした。
久々に思考を伴わず自然に笑んだ


中途半端な感性が苦手な夏に、空に咲いた花に優美を感じとった
それは私の中でも奇跡に近く、後から思い返せば衝撃の出来事




…でもそれ以上に数日経った今でもハッキリと覚えてる

私の言葉に少しだけ目を見開いて
彼にしては比較的大きな反応で驚いた表情を浮かべたあと



「そ、…よかったね」



いつもと同じ耳の奥に響く低い声

でも鋭い普段の声と異なり、心底優しげな声音でそう呟いた

それに添えられたのは柔らかい笑み、と称するには浅いが
普段の好戦的な顔つきとは違う雰囲気で表情を緩めた




初めて見た恭弥さんの表情は鮮明に脳裏に焼き付いてる

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作者名:睡-スイ- | 作者ホームページ:https://twitter.com/sleep_d_urtk?s=09  
作成日時:2019年9月23日 16時

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