6年越しのバレンタイン / 月岡紬 ページ29
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この時期になると毎年思い出す。
6年前のバレンタイン。
苦く、悲しい日だったこと。
高校生の頃、演劇部に所属していた私は同じ部活の紬君に恋をしていた。
彼の人当たりが良い所とか、少し抜けてる所とか、演技になると急にかっこよくなる所とかそんな所が好きだった。
バレンタインは2月末に迫った卒業公演に向けて、日々稽古をしている頃だった。
私は演劇が好きとか、そういう運動が苦手だったから文化部がいいなとかその程度。
紬くんや高遠君の様な演技に対する熱量は無かった。
だから私はいつも、村人B。そんな役。
今回の役だって、主役の紬君に振られるモブ女Aだ。
紬くんのお相手は、可愛くて演技力もあって、紬くんの隣がお似合いの女の子。
恋愛モノは嫌いだった。
私は、紬くんの隣に立つことは無かったから。
本番までの毎日、私は何十回何百回と紬くんに振られ続けた。
私じゃない女の子が、紬くんの横で笑っているのを舞台の袖から見る日々だった。
『あの、話があるんですけど…』
『なに?』
『私、貴方の事が好きです…!』
『ごめん、君と付き合う事は出来ない。大切な人がいるんだ。』
ありがちな台詞も、紬くんに言われると演技とはいえショックだった。
いつも大根役者と呼ばれていた私は「今回の演技いいねー!」なんて皆に褒められてしまって。
当たり前じゃん、紬くんの事が本当に好きなんだから。演技じゃないよ、なんて言えなかった。
バレンタインというイベントは女子高生にとっては一大事で、誰にあげるとか告白するとかそんな会話で学校が埋め尽くされる。
私も、その1人だった。
「Aは?どうすんの?」
「紬くんに、あげようかなー、なんて…」
「いいじゃん!あげなよ!」
「頑張って!」
友達の後押しもあり、私は「好きです」と書いた紙を忍ばせ紬くんにチョコを渡すことを決めた。
バレンタイン当日も、相変わらず部活の稽古はあって今日も役としては振られてきた。
部活終了時刻を迎え、皆が部室から出始め紬くんが一人になったのを見計らって話し掛ける。
「紬くん、お疲れ様」
「あ、Aちゃん。お疲れ様」
「あの、紬くん。話があるんだけど…」
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作者名:Chocolate palette.製作委員会 x他4人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2018年2月14日 21時