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「……カズ」
大学帰りなのだろう、三角の後ろ姿を追ってきた一成が「バオワ?おつピコ!」といつもの調子で肩を叩く。カズもお疲れ、と薄い笑みを浮かべて一成の持っていた紙袋の中のチョコレートを見つけた。友達が多い分天馬に負けず劣らず、という感じである。三角の目線に気付いたように一成が「貰えた?」と尋ねる。誰から、というのは言わなくてわかるんだろう。彼らはそういう仲だ。
「……うんん、まだ」
「そっか、でも大丈夫だよ」
なんたってAちゃん、すみーのこと大好きじゃん。
バレンタインは流石にカレーが並ぶことはなかった。豪華な料理はつい先日にあったクリスマスを忘れさせるほどで大した行事でもないのにと小言を並べる左京もいた。チョコフォンデュに盛り上がる学生組を眺めながら酒を組み交わす大人たち。三角もいつもなら美味しいものに食いつくはずなのに、今日はそんな片端にいた。
「みすみ、」
柔らかいソプラノが鼓膜を揺らす。「……A」、顔を上げたそこにいたのは大好きな彼女の白い肌。
今、言うしかないと口を開く。
「あのさ」「あの、」
ふたりの声が被る。あ、と口を閉じて 「どうぞ」と笑う彼女があまりにも愛おしくて、三角は頬を緩めた。「こないだはごめんね」 遅すぎる仲直りは始めてだ。彼女は唇を薄く開いて首を振る。私こそ、言おうと思ってた、と。
「三角と喧嘩できて、嬉しかった」
「へ?」
「初めて本音を言ってくれた気がして」
だっていつも、あなただけ離れていっちゃいそうで。彼女の声に三角は目の奥が少しだけ熱くなった。わかっててくれてたんだ。三角はそれ以上は何も言わずに ただ「うん」って、一言を口の中で転がした。オレ、やっぱりAが好き。そんな言葉も舌の上に乗せるだけで声にはしなかった。
「ごめんね、意地張ったばっかりにみんなと同じチョコレートなんだけどさ、来年はちゃんと三角だけに作らせて」
ピンクの包装がされたチョコレートは、何よりも綺麗で ちゃんとチョコレートは三角形にしたからね、と付け加えた彼女を抱き寄せた。えへへ、と三角の口癖が彼女にまで移っている。好きな人に似るってこういうこと、そう思うと嬉しい。
「ありがとう、A大好き」
今まで何度も言ったのに告白した日のように緊張して、おかしくなりそう。「知ってる」「私も大好き」。胸に頬を寄せて 華奢な身体はすっぽりと収まってしまう。オレがこんなに人を愛せたのは、彼女が初めてだった。
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作者名:Chocolate palette.製作委員会 x他4人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2018年2月14日 21時