子猫と勘違いして煉獄兄弟拾って来てしまった女性の話。

にゃんが三十五匹 ページ35

私は線を引いた。
きっと自分が傷つきたくないから。
会者定離＿＿＿という言葉がある。
出会った者とは必ず別れる定めにあることを。


誰にだって別れは来る。それが早いか、遅いか。
ただそれだけのこと。
少なくとも、杏寿郎さんは前者で、ここの世界の人達よりも別れは早い。



私はきっと引き止めてしまうから。




「A」




この感情に名前なんてつけてはいけない。



「A！！」
「っ！」



ハッとして前を見ると、杏寿郎さんが目の前で私の肩を掴んでいた。



「馬鹿者！車に轢かれるところだった…！！」


杏寿郎さんの眉がキュッとつり上がって、目も怒っている。





「ごめんなさい……」
「A」
「ごめんなさい、……次は気をつけますから」
「…」
「杏寿郎さん？」
「すまない、後で怒りも全て受け入れる」





深夜だけど、それでも全ての音が消えた気がした。





通行人など気にせずに、帰り道に唇を重ねた。
杏寿郎さんが私の髪留めを取り、指に髪を通して更に引き寄せた。



私も杏寿郎さんの首に腕を回した。





「このまま傍に居てくれ」




熱い眼差しを向けられ、私は唇を押さえながら、眉を下げた。


キスをしてしまった。
杏寿郎さんと。



何も付き合うとか、そんなことにもなっていないのに。





「A、君が苦しそうな顔をする度期待してしまう」
「っ…！」
「本当は友人以上の感情があるのかもしれないと」




杏寿郎さんは同じように困ったように眉を下げる。



「いつかは別れる定めだとしても、俺は君が好きだ」




「拒むなら、ちゃんと拒んでくれ」




また私を引き寄せて口付けた。






ごめんなさい。
私も貴方を拒むことなんてできない。

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