炎の狂った愛を受け止めて。弐

ごじゅうはち ページ8

わぁぁぁ！気持ちいい〜！！
人が少ない朝にこれて良かった〜！！


私は杏寿郎さんを説得するというか強引に押し通す事に成功した。
昔の私だったらきっと言いなりだったんだろうけど、杏寿郎さんは旅行で精神を削られているようで、あまり強さを発揮できないらしい。



まぁ、色々朝からとんでもない事しちゃったけど。
思い出すと少し恥ずかしい、いや、とんでもなく恥ずかしい。

自分がこうもグイグイキャラだったとは……と疑ってしまうほどの押しっぷりだったと思う。




『Aｯ……好きｯ…』




少し涙目の杏寿郎さんを思い出し、私は叫びそうになるのをそっと堪える。


「ふぅ、でも、良かったぁ……ゆっくりできる…」



杏寿郎さんは部屋で待っていてくれるから……安心だ。
炭酸風呂に入ったり、露天風呂はもちろん、美白効果のあるお風呂に入ったり、五、六個の風呂に入り、サウナで汗を流し、またシャワーで頭を洗って、温泉というループ。

なんて贅沢ｯ…。



足を伸ばし、手も伸ばす。






＊＊＊




「ふぅ……気持ち良かったぁ…」



浴衣で外に出れば、女性の人だかりが出来ている。
嫌な予感がするのだが。


いやまさか。

杏寿郎さんは私と約束したんだもの。
部屋でちゃんと待っていてくれているはず。



「……いや………」



明らかに目立つ髪色が人だかりから見えたのだが。


「あの、これは何の集まりなんですか？」


女性に聞けば、女性は大変興奮気味で話し始めた。


「とんでもない色男が居るんですよっ！！私も一目見たのですが、もうカッコよくて！！きゃぁぁ！こっちに来たわ！！」


見れば杏寿郎さんが嬉しそうに遠くからこっちに駆け寄ってこようとするので、私は初めて背を向けて、部屋に戻る事にした。




少し怒ってる。
いつも優しくてカッコよくて、少し独占欲が強い杏寿郎さん。
怒る事なんてほぼ無かったのに。


約束破ったんだね。



それに自分はあんな独占欲さらけ出しといて、私には女性に囲まれているのを見せるの？




「Aっ」
「触らないでください」
「……すまない、Aが心配だったんだ…」


部屋に入り、私は浴衣を脱いで帰る用の服に着替える。


「A…？」
「私、帰りは一人で帰ります」
「A、何を言っている」


低い声がして、腕を掴まれる。


「……っ、杏寿郎さんなんて大嫌いです！！もう本当に大嫌いです！！なんで、どうして私の約束破るんですか！！」



涙が溢れて止まらなかった。

ごじゅうきゅう＊→←ごじゅうなな

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す