炎の狂った愛を受け止めて。弐

ななじゅう＊ ページ20

朝四時、優しく頭を撫でられて、持ち上げられる感覚がした。
ゆっくり目を開ければ、杏寿郎さんが運ぼうとしている途中だった。





「杏寿郎さん…」
「起こしてしまったか、すまない…おはよう」
「おはようございます」



垂れ落ちそうな瞼を必死に持ち上げて、杏寿郎さんを見る。



「私を…寝室に…連れて行くのですか……？」
「あぁ、そうした方がやはりいいだろう？」
「……離れたくないです…」





まだ寝ぼけているから、だろうか。
思った事が、口からそのまま零れ落ちてしまう。
ダランとした腕をゆっくり彼の首元に回し、くっついた。





「離れたくないです」
「…あぁ、俺も離れたくない。だが、お義母さんが来ているから……少し、我慢はしないといけない」
「……」




杏寿郎さんは眉を下げて、笑う。
そして、私を見つめて、そっと顔を近付けた。
軽く唇が触れ合って、離れて。
杏寿郎さんは、嬉しそうに目を細める。




「あぁ……本当に。離したくない」
「なら……杏寿郎さん、離さないでください」






そう言えば、「まったく…煽るんじゃない」と言われて、額に軽くデコピンをされてしまった。






「お義母さんが帰られたら、一睡もできないぐらい深く深く……」
「そ、そこまでしなくても……！」
「指先を切った事も気が狂いそうだった。君をドロドロに甘やかして、俺に沢山甘えてもらわないとな！」
「なっ、もう甘えてますし……これ以上は……！！」
「足りない。まだだ」











杏寿郎さんは寝ている母の隣にゆっくり私を寝かした。



「まだおやすみ。A」




優しく頭を撫でてから、杏寿郎さんは寝室を出た。
杏寿郎さんの背中を見ながら、私はまた目を閉じた。

だけど、結局杏寿郎さんの事で頭がいっぱいで、その後あまり寝れなかった。






＊＊＊





朝六時半頃。



「おはようございます、お義母さん。Aもおはよう」



ワイシャツを着て、真っ赤なネクタイをしっかりと付けて、朝食の準備をしてくれていた杏寿郎さん。お母さんは杏寿郎さんを見て、昨夜の事で謝った。
杏寿郎さんの反応は、

「いえ、俺もお義母さんを心配させてしまって……
ですが、安心してください。
俺はAさんとは絶対に離婚はしません。Aさんを深く愛しているので」



彼の瞳は三日月のように弧を描いていた。

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