炎の狂った愛を受け止めて。弐

ろくじゅうろく ページ16

夜、私は頭を抱えている。
杏寿郎さんは爽やかな笑顔を浮かべている。



なぜ、私は頭を抱えているのかと言うと＿＿＿＿＿＿



「さぁ、さぁ！！杏寿郎さん、沢山食べてね〜！！」



「はい、お義母さん」



私の母が家に来ているという事だ。


遡ること約五時間前。



＊







私は午後二時に、杏寿郎さんが作り置きしてくれた昼食をとった後、
弁当を片付けて、部屋の掃除をしていると、インターホンが鳴って、モニターを見ると母親が立っていて驚いた。



「お母さん！？」
「A〜、お父さんと喧嘩しちゃったのよ〜！！今日一日だけで泊めてくれないかしら…」



しかし、お母さんはキャリーバッグ……明らかに一泊で終わりそうにない。



「杏寿郎さんに電話しないと…今、大丈夫かな…」




急いでメールを先に送る。
するとすぐに電話が掛かってくる。




「杏寿郎さん？」
「どうした？何かあったのか？」
「私の母が家に…その父と喧嘩したらしくて…一泊させて欲しいと…」



そう言えば明るい声が帰ってくる。


「なるほど、ははっ、お義母さんが今日は一泊するんだな？うむ！分かった！何か帰りに買ってこようか？お義母さんの好きなケーキを買ってこようか？」
「いやいや！！杏寿郎さん、そんなに気を遣わなくていいですからっ」
「いや、せっかく来てくれたんだ。買ってこよう！」


その後少し話をして、電話を切る。



「もう、本当に杏寿郎さんは素敵な旦那さんね〜！A〜！」




携帯に耳を付けていた母は杏寿郎さんを褒めまくる。
別に嫌な気持ちになんてならないのだけれど。

ただ、杏寿郎さんの束縛を知ったらどう思うのだろうとは思った。







＊


そして現在に至る。


「今日は天麩羅を沢山作っちゃったわ〜！！」


母と久しぶりに天麩羅を作るのは楽しかった。
父と喧嘩した理由などは言ってこないので、あえて聞くのは止めたが。



「Aったら、久しぶりに料理をしたの？スライサーで指を少し切っ…」
「お母さん、あのさ、れんこんの天麩羅取ってくれない？」
「はいはい、分かったわよ」



まずい、隣に座っている杏寿郎さんを見れない。
しかし、私の膝にそっと手が置かれて、つい杏寿郎さんを見る。




「指を怪我したのか？」
「あ、少しだけですよ…？」
「そうか、でも軽傷で済んで良かった」


母の前で怪我した指先に絆創膏の上から口付けられて、私と母は固まった。

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