貴方を見届けさせて。

拾捌 ページ18

「む？藤宮さん、目覚めたようだな！」



ピタリと木刀を下ろし、そして、こちらを見て笑顔を浮かべた。
貴方はいつも笑顔だ。
みんなを安心させる笑顔。


とっても綺麗だけど＿＿＿＿＿






「っ……あ、はい！すみません……勝手に寝てしまって〜」





泣くな私。
絶対に泣くんじゃない。
こんな所で泣いたら相手が困ってしまうじゃないか。
どうして、煉獄さんの笑顔を見ると毎回泣きたくなってしまうのだろう。



胸が堪らなく苦しくなる。
筋肉痛よりもずっとずっと痛い。
呼吸が苦しくなる。





「あぁ！大変っ！！父さんの手伝い忘れてた！……煉獄さん、明日も朝、稽古よろしくお願いします！！では、失礼します！！」
「む？藤宮さん！！？」








急いで屋敷から飛び出して走る。
その瞬間に堪えていた涙が溢れ出した。




「くぅぅ……悔しい、悔しいよ……」





心の中は悔しさでいっぱいだった。
なんで、泣くんだ、なんで泣いてるの。
どうして私はこんなにも涙脆い人間になっちゃったの。





＿＿＿＿＿＿見届ける、って決めたのに。
自分の決意の弱さに腹が立つ。





私の力ではどうする事も出来ないくせに、救いたいだなんて傲慢(ごうまん)な考えだ。
ずっとそう思って、抑えつけていた。


だけど、煉獄さんの笑顔を見る度にこの人が消えてしまったら、その笑顔が見れなくなったらと考えると胸が張り裂けそうだった。








「君はまた泣いている」




酷く静かな声が後ろから聞こえた。





「笑顔を無理矢理貼り付けたかのような顔で出て行って。心配する。何があった？どうして泣いている。藤宮さん」





一瞬で固まった。
そして本能が全身を震えさせた。



だが、急いで頭を回転させ言い訳を考える。




「煉獄さん！何言っているんですか〜！私がそんな顔をしていたのは、父さんからの鉄拳が飛んでくるのが怖くて！」




煉獄さんを見ないように振り返らず、真っ直ぐ前を向いて歩く。





「煉獄さんにもうお恥ずかしいところは見せたくなくて」
「藤宮さん」







私は尊敬してるだけ。
深く尊敬しているだけ。






少し、一瞬＿＿＿＿＿＿煉獄さんには絶対に抱いてはいけない気持ちが生まれてしまったのも、きっと尊敬しているから。





ただそれだけのこと。

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