私昔のこととか覚えてないんですけど。 (ページ21)

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救世主ページ21

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ごほごほひゅーひゅーと、明らかに訓練を続けてはいけない音が響く中、太宰幹部はただ冷めた目でこちらを見た。

「……相手が死ぬまで勝負は終わらないよ」

でも、と続ける。

「多分そろそろ中也から電話がかかってくるから、今日のところはこれでお終い」

すると、プルルル、と着信音が響きだす。

エスパー恐ろしすぎ、とか思っている間に太宰幹部は行ってしまった。

しかし太宰幹部が去ったところで咳の音が治まるわけでもなく。

①とりあえず助け起こす
→何かしらの攻撃を受け昇天

②救急車を呼ぶ
→未来の指名手配犯と共に少年院で昇天

③中原さんを呼ぶ
→太宰幹部と電話中、昇天(?)

④ほっとく
→来週までに芥川さんか私が昇天

……選択肢無くね？

どうしようどうしようと倉庫の中をうろうろと歩き回る。

この世界、やたらと自分が死ぬ分岐ルートが多い。

「……あの時の神出てきてくれないんですかねえ」

「お困り？」

一瞬、心臓が止まった。

ギギ、と効果音のつきそうな動きで背後からの声の主を確かめる。

逆光でよく見えないが、穏やかさの中に冷徹な単調さを感じさせる声と雰囲気は、完全にその人だった。

「石川、さん……？」

「こんにちは。一昨日ぶり」

それだけ言って石川さんは芥川さんに歩み寄り、その背中をさすった。

「立てる？」

芥川さんが他人に体を触らせたことだけでも驚いたのに、さらに石川さんの問いに首を縦に振って答えた。

「此れくらい……何でも、ありませぬ」

「何でもなくはないでしょ。医療班連れてくから肩貸して」

「いえ……太宰さんの御友人に、ご迷惑をかける、訳には」

「またそれ？治くんの脅しなんて気にしなくていいのに」

その会話の後、何かを理解しかけていた私の方を向いた石川さんはこう言った。

「龍之介くんはぼくが面倒見るから心配ないよ。あと、治くんと中也くんから伝言ね。明日、午前は体術訓練で、午後は異能訓練だって。何でも、近いうちにまた任務があるらしいけど」

この短時間に何があったんだろうと思った。

割と情報過多だしとりあえず明日私は死ぬんだなということはわかる。

「あ、そうだ」

突然、石川さんが足を止めた。

忘れるところだった、と懐を探り、一枚のメモ用紙を取り出す。

はい、と差し出してきたので恐る恐る受け取ってみる。

「それ、ぼくの電話番号ね。何かあったらいつでも呼んでいいから。特に治くん関連」

「ありがとう、ございます」

神が降臨した。