嬉しそうだったから ページ10
彼がAの方へ差し出したのは、鉛丹色をした小さな巾着袋だった。
「これかな?」
「あ――! そ、それで間違いないです!」
「じゃあ、はい。君のものだね」
「ありがとうございますっ!」
Aが受け取った瞬間、その顔には安堵の色が広がる。どうやら本当に大事なものだったようだ。
「というかそれ、いったいどこで見つけたんだ?」
「最初に訪れた崖で僕が拾ったんだよ。報告しようとしたんだけど、この建物の方が優先度が高いと思ってね」
司の疑問に類が答えると、「なるほどな……」と言って納得した。
「……みなさんは――私の何を知っていらっしゃるんですか?」
唐突に放たれたのは、そんな質問だった。
Aは司達を真っ直ぐに見つめている。
それはどこか不安げでありながらも、同時に期待しているような眼差しでもあった。
「私、みなさんのことがわからないし、それ以前に自分が何なのかも、ずっとずっと……二年前から思い出せないままなんです」
彼女はそう言うと、手元の御守りに視線を落とす。
そして小さく深呼吸をして、ゆっくりと話を続けた。
「……このままあの人のお世話になる訳にはいかないし、それに」
そこで一度言葉を区切る。するとAは再び顔を上げ、司達を――正確には司をまっすぐ見据えた。
「すごく、嬉しそうだったから」
「……え」
無意識のうちに漏れた声。
司は一瞬遅れて、それが自分のものだと気付く。
「無理はないよ。司くんは、二年前からずっとAくんを捜し続けていたんだから」
「二年前から……ずっと」
類のフォローが入ると、Aは目を丸くして呟いた。
それから彼女は少しの間黙り込んでしまったが、ややあって意を決したように口を開く。
「教えてください。私はそんなに、必死になって捜してもらえるくらいの人間だったんですか?」
懇請するような瞳。司はその問いに対して、はっきりと告げた。
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時