私しかいない ページ44
ふわりと香る優しい匂い。Aに温もりを与えたその細身な長躯が小刻みに震えているのを感じながら、呆気にとられる。
飛び込んできた時に見えたのは、サングラスと帽子を身につけた女性だった。
「――おかえりなさい……Aちゃん」
その声を耳にしてようやく、Aはその人物が誰かを理解した。
「雫、ちゃん」
「ちょ、お姉ちゃん! Aさん一応病人で……」
「わたしは大丈夫だよ。ありがと志歩ちゃん」
Aと妹の言葉を聞いて、抱きついていた少女――雫は名残惜しそうに離れた。
「帰ってきてくれるって、信じていたわ」
「俺もです、Aさん。咲希さんや司先輩からお話をお伺いした時はとても驚きましたが……また会えて本当によかった」
雫に続いて声を上げたのは、咲希の連れて来た冬弥だった。Aはこの二人とも、小さい頃から天馬家経由で交流があった。
「冬弥くんも……。えへへ、ただいま」
照れくさそうに笑うAを見て、二人は安堵から息をつく。一歩引いて様子を見守っていた天馬兄妹も安心したように笑みを浮かべた。
「司先輩の尽力の甲斐あって再会を果たすことができたと聞いています。流石です」
「うんうんっ、とーやくんもそう思うよね!」
冬弥の素直な称賛に、咲希も同意するように頷く。
「お兄ちゃんがなまえちゃんのこと諦めなかったおかげで、今があるんだよ!」
「フハハハ、存分に称えてくれ」
「今回ばっかりは一概に大袈裟とも言いきれないけど……調子に乗りすぎるのも良くないと思いますよ」
得意げに胸を張る司に志歩がジト目を向ける。が――
「そうかしら? 司くんの頑張りがあったから、またこうしてAちゃんとお話できているっていうことは間違いないと思うわ」
「うん。司くんがいなかったらわたし、どうなってたかわかんないもん」
「……あれ」
雫とAも司を擁護する状況に、志歩は違和感を覚えた。
「そうだろうそうだろう! 幼なじみ一人笑顔にできないようじゃ、スターは務まらんからな!!」
「……」
そしてようやく気づく。
(このメンツ、司さんのことになるとツッコミが私しかいない……)
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時