欲張り ページ43
夜の病室は、しんとした静寂に包まれていた。
「……みんなに、会いたいな」
サイドテーブルに置いてあった縁結びの御守りを手に取って、Aはぽつりと呟いた。
この場所で寝泊まりするようになってから数回、司やえむ達と一緒にいる夢を見た。
……思い出すだけで顔から火が出そうになる記憶もあるが、それだけ彼らと過ごしたいという気持ちが強いということだろうか。
もしかすると、自分で思っているより欲張りになってきているのかもしれない。健康体と昔の記憶を取り戻すことができた今の、一番の悩みの種だ。
御守りを握りしめたままベッドに倒れ込む。
「……司くん、わたしがキスした夢見たって言った時、ぜんぜん驚いても、慌ててもいなかったな」
あの時は気が動転していて気づかなかったが、よく考えると彼はびっくりするくらい冷静だった。まるで、最初から知っていたかのように。
「まあ、最近は夢なんて見なくなっちゃったし……気にしたら負けだよね……!」
自分に言い聞かせるように声を出すと、そのまま眠りについた。
それから、しばらくしてのこと。
複数の足音とよく通る声が聞こえ、Aは文庫本へ落としていた視線を、窓からの西日に照らされているドアに移した。
「みんな、今日も来てくれてありが――」
言いかけた彼女の言葉を遮るように、部屋に入った瞬間ベッドまで近寄った影がAを包み込んだ。
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時