歌声 ページ5
えむ達に見送られながら、司はAを連れて森の中へ入って行った。
木々の間を縫うようにしてしばらく進むと、少し開けた空間に出た。
先程の場所とはまた違った印象を受ける山の景色が広がっていて、まるで別の場所に来たような錯覚を覚える。
「おお……ここは……？」
『……わかんない。でも、すごく綺麗なところ……』
目を輝かせて辺りを見回す司と、スマホの中で同じように辺りを眺めるA。
山の深緑とスカイブルーという色の対比は、やはり何度見ても美しいものだった。
二人は暫くその光景に見惚れていたが、唐突にAが何かに気づいたように肩を揺らす。
「どうしたんだ？」
『電話だよ、寧々ちゃんから……？』
急な着信に首を傾げる二人。
何か進展でもあったのだろうか。
とはいえ、Aがスマホから出てきている状態だと通話はできない。
一時的に類かえむのスマホへ向かうことを司に告げると、ホログラムの彼女は姿を消した。
「よしっと。どうした寧々」
『あ、繋がった。あのさ司、聞きたいことがあるんだけど、昨日アンタが神社で買ったお守り――』
通話に出るなり問いかけてきた寧々に答えようとした時だった。
「……――♪」
「……！」
どこからか聞こえた歌声に、司はハッとして耳を傾ける。
澄んだソプラノの音色は、確かに人の声だ。
(どこから聞こえる？ 近いのか？)
慌てて周囲を見渡すと、少し離れたところで草むらが大きく揺れ動いた。
そこにいた人物を見て、思わず目を大きく見開く。
『ねえちょっと。聞いてる？』
耳元から離してしまったスマホから、電話越しに寧々の声が響く。
しかし今の司にはそれに応える余裕がなかった。
その歌声は、やけに耳に馴染む。
司はその音に引き寄せられるように、ゆっくりと歩みを進めた。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
