お前のせいじゃない ページ36
「失礼します」
ノックをして、返事を待たず扉を開ける。退院後に天馬家で暮らしてもらう件について話をしようと考えていた司だったが、その考えはすぐに霧散した。
「つ、かさ、く……」
病室のベッドの上にいるAの姿を見たことで、思わず絶句したのだ。
彼女は、泣いていた。
泣き腫らした目元を隠すこともせず、嗚咽混じりに肩を震わせて、涙を流す。
「Aちゃん！？ な、なな、何があったの！？」
「昔のこと、ぜんぶ思い出して……そしたら家族みんな、しん――じゃった、ことも……思い出した」
彼女の言葉に、えむと寧々の顔が青ざめる。類は何も言わずに目を伏せた。
「二年前、みんなは未来を奪われたのに、わたしだけのうのうと生きてた……！ 辛いこと全部なかったことにして、ずっと逃げてた……！！」
顔を覆った手の下からは、絶えず大粒の雫がこぼれ落ちていく。その光景が、司の心を深く傷つけた。
司は唇を噛み締める。こんなことになるくらいなら、いっその事全てを忘れたままの方が良かったのではないかと思ってしまうほどに。
「――違う」
震える声で呟くと、司は一歩前に出る。
「お前が生きていてくれてよかったと思っている人間が、ここにいるんだ。だからAは、逃げていたんじゃなくて、自分の人生と向き合っていただけなんだ」
Aの頬に手を伸ばし、流れる涙を拭いながら、司は優しく語りかける。それでもまだ足りない気がして、「A」と名前を呼んだ。
「お前のせいじゃない。だから、もう泣くな」
Aは、司の言葉にゆっくりと顔を上げる。
「ありがとう、司くん……」
そう言って微笑むAの目元は赤く染まっていたものの、先程までの悲痛さは消えていた。
「わ、わたしも！ Aと会えて嬉しいと、思ってるから……生きててくれて、ありがと」
「僕も、同じ気持ちだよ」
寧々と類が続けて話すと、Aは照れくさそうにはにかんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 120人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
