番外編 ページ17
「ね、ねえ司くん。もっとくっついて……いい？ 嫌だったら、言ってね」
「私も、もう少しそばにいたいです。あなたの隣が、一番落ち着くので」
なんだ、この状況は。オレは夢でも見ているのだろうか。
両側から最愛の幼なじみの声がして、柔らかい感触と心安らぐ匂いに包まれている。
「……A」
「なあに？」「どうしました？」
「いやなんでもない」
いやいやなんでもなくはないだろ。そうは思っても、この幸福な状況を手放したくないオレがいる。
改めて顔を上げると、確かに左右にAがいた。確かに、二人いる。
微妙にあどけなさの残る方が、オレが作り出したセカイのA――そして絶妙に大人びているように見えるのが、本来のAだろう。
大人びているといっても見た目に大きな差がある訳ではなくよく見ないとわからないほどなので、口調と服装が判断基準だ。
しかしオレはAをよく見ているので、そんな要素なくとも見分けがつく自信ならたっぷりある。
……どうしてセカイに本物のAがいるんだ？
どう考えてもおかしいことがあった。
本人に直接問い質すため口を開こうとしたタイミングで、右隣にいたAが甘えるように頬を擦り寄せてきた。
「……えへへ」
思考が全て吹っ飛ぶほどの破壊力を持ったそれに、胸がきゅうっと締め付けられる。
可愛い。愛しすぎる。今すぐ抱きしめたい。
衝動のままに腕を伸ばしかけたところで、左隣のAがそわそわし出した。
「あのっ、天馬くん」
「うん！？ なんだ、どうかしたか！」
思わず声が裏返る。彼女はぱちりと目を瞬かせてから、ふわりと微笑んだ。
髪に指を差し込まれる感覚。
少しだけ身構えるも、すぐに離れていった。代わりに視界いっぱいに広がるのは、嬉しさと照れが混じったような笑顔。
「顔が見たいなって、思っただけです」
「っ、そ、そうか」
キスされるのかと思った。勢いよく顔を逸らすが、その先には幸せそうにオレの腕を抱くAの姿がある。逃げ場がない。
何が起きてるかさっぱりわからないし、正直すこぶる混乱している。だが、ひとつ確かなことがある。
「ふふ、天馬くんの隣」
「わ、わたしだって！」
夢ならば、覚めないで欲しい。そう切に願うほど、オレはこの幸せな時間を堪能していた――瞼を開いて、宿泊中の旅館の部屋の天井を見ることになるまでは。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
