何よりも大切な ページ14
旅館に戻った後夕食に向かう前に、司達はセカイへ赴いていた。
最後にセカイのAと会ったのは、屋敷に入る前。しかもその時彼女は調子が悪いと言っていたらしく、司達も心配せずにはいられなかったようだ。
彼女のことを探してセカイを歩いていると、木陰に姿を見つけた。メイコの膝に頭を預け、その隣でレンも座っている。
「Aちゃんっ! だいじょーぶ!?」
「あ、みんな……おかえりなさい」
弱々しげな声で言ったAは、司達が近づいていくと安心したように頬を緩ませる。
「Aちゃん、さっきまでずっと辛そうだったから、メイコのひざまくらで休んでたんだ!」
「レンくんもいろんなお話してくれてありがとう。おかげでだいぶよくなったかも」
「そうだったのか……助かったぞ、メイコ、レン」
礼を言う司に対し、二人は「どういたしまして」と揃って返した。
「それはそうと、早くあのこと話した方がいいんじゃない?」
寧々の言葉を聞いてハッとした司は、改めてAの方を見る。身体を起こし、姿勢を正して座る彼女に真剣な眼差しを向けた。
「単刀直入に言うが――現実世界のAを見つけた」
「え……! ほ、本当にっ!?」
「すごいじゃない! きっと、司くんの想いが届いたのよ!」
Aが身を乗り出して聞き返すと、メイコは我が事のように喜んで声を上げる。一方で、類がどこか神妙な面持ちで俯きがちに口を開いた。
「ただ、問題がひとつあってね――」
「問題……?」
類に訊ねるレンの声が僅かに震えている。それを察したのだろう、類は一瞬躊躇う素振りを見せたがすぐに続けた。
「彼女から、事故以前の記憶が全て消えてしまっているみたいなんだ」
「――え……」
その言葉を聞いた瞬間、Aの表情に影がかかる。ワンダショの四人も、そしてメイコやレンも、誰もが何も言えずに押し黙ってしまった。
事故以前の記憶。それはAにとって何よりも大切なもの――家族との、そして司との思い出だ。それが今となっては全て失われてしまっているということがどれほど辛いことなのか、想像するのは容易いことだった。
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時