【歌い手】紫色カレシ。【志麻】

# お か え り ページ12

今日は、ライブの打ち合わせがあり、
帰りがだいぶ遅くなってしまった。



一応、Aに連絡を入れた。


歌い手をやっている以上、
こういう事は結構あり互いに時間が
合わず、一緒にいられない時がある。


『……A、起きとんのかな…』


彼女は明日も仕事やし、何せ眠りが浅い。起きていたとしたら、Aの仕事に支障が出るかもしれへん。


彼氏としてそれは避けたい。
俺のせいでAに迷惑はかけられへん。俺が一番嫌な事やし…。



『お願いだから、寝とって……』


辺りは既に真っ暗で、一人で歩く俺を
柔らかい、月の光が照らす。


『あの月、Aみたいやなぁ…』


優しくて、包み込むような光。

満ち欠けするものの、儚く美しい姿。

どんなに遅く帰っても、何も聞かず、
笑顔で俺を迎えてくれる。


『早く会いたいなぁ、A……。』

俺は家へと帰る足を速めた。



アパートの玄関の目の前に立ち、
インターホンを鳴らす。

扉の向こうから聞こえた、
微かな足音。



笑顔で迎えてくれる彼女を
想像すると、自然と笑みが零れた。



扉が開く。



『A、ただいま。外、見てみ?


今夜は、月が綺麗やから。』




すると、彼女はふっと目を細め、
細い腕で、俺を抱きしめた。









はにかみながら、彼女はいつも言う。









　 お か え り ってな。

# し る し→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す