刹那の時 ページ7
朝の収録が終わった。今日は外の仕事が朝の情報番組の生出演だけで、事務所に戻り、ダンスレッスンとボーカルレッスンがあった。夜は奨くんと純喜くんがカルボナーラをメンバーに作ってくれることになっていた。
ボーカルレッスンが俺だけ少し押したため、帰路に着くのが少し遅くなった俺に奨くんから連絡が入っていた。
パスタが足りなくなりそうだから買ってきて欲しい、との連絡を見て帰り道のスーパーに入る。
普段料理を全くしないせいか、パスタの麺の種類がこんなにあることすら知らずに暫く悩んでいたが、わからないので電話をかける。電話口の奨くんは、おつかれさまと労いの言葉をくれたあとパスタお願いと念押ししてきた。
「パスタってどれっすか、太さとか茹で時間とかめっちゃあるんやけど……」
【普通のやつだよ!あれどこのだった?有名なやつ、あれ純喜袋ない?】
今使ってるものの空き袋を探す奨くんと純喜くんを待つ。
すると視界の隅にゆっくり近づく人影を感じて、1歩下がる。俺ずっと邪魔やった?
近づいてきたその人に申し訳なさを感じながら一瞥すると、呼吸を忘れる。心臓が強く跳ねた。
この1年、あの横顔をあの姿を俺は忘れたことはなかった。忘れられたことがなかった。
自分でも驚いたが、反射的に彼女の腕を掴んだ。
彼女の腕を離せずにいた。電話口から奨くんが俺を呼ぶ声がかなり遠くに聞こえる。音が遠くなり、時が止まったかのような錯覚を覚えた。
ずっと、ただ一言伝えたい思いがあった。
彼女は驚いた顔で俺を見つめていて、以前とは異なり少し大人っぽくなった雰囲気に不安を感じる。
『…………えっ…と……?』
怯えたような声で彼女が呟いた。困ったように眉をひそめて、俺に次の言葉を催促する。きっと覚えてなどいない。それでも、この偶然に確かな運命を感じていた。
彼女の声で金縛りが解かれたように自由を取り戻した体で電話口の奨くんに早口で掛け直すことを伝えると携帯を閉じてジーンズのポケットに捩じ込んだ。
ゆっくりと彼女の腕を掴んだ力を弛めたが、腕は離さずにいた。やっと見つけたのだから、なにか話題を、なにか言葉をかけなければと考えれば考えるほどに焦る。
咄嗟に彼女の買物カゴを盗み見てそれなりに料理をすることを確認してから、
「あ…カルボナーラの麺ってどれか教えて貰ってもいいっすか…」
こんな時瑠姫くんなら上手くこの場を切り抜けるのだろうか、初めて瑠姫くんのキャラを羨ましいと感じた。
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sour(プロフ) - はなさん» はなさん、不慣れなもので……ご親切に教えていただきありがとうございます!! (2021年11月27日 21時) (レス) id: 6bf6ad2f5e (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - オリジナルフラグたってますよ……! (2021年11月27日 16時) (レス) id: 1f4f011eda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sour | 作成日時:2021年11月26日 14時