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恭平はアホで単純だけど意外と勘がいい。
だからだろう、そんな恭平に見せつけるかのように絡んできた大橋と｢もー、やめろや！｣とあしらう俺。
そして勘はいいけどやっぱり単純な恭平はそんな様子を見て満足そうに笑っていた。
先程は3人で楽しく話しながら通った住宅街も今は駅の方から微かに聞こえる街のざわめきと電車の音の他には俺らの足音だけが響いている。
俺は前を歩く大橋の背中をぼんやりと眺めながら、
あの時大橋はどんな思いで何を考えながら俺の名前を呼んで、話しかけてきて、触れてきて、笑いかけてきたのか？
と考えてはそもそも大橋の気持ちなんて考えずに自分の気持ちだけを押し付けて縛り付けてる結果がこの現状な訳で今さらそんな事を考えた所でもう遅いのに…
そして、結局は自分勝手な不安と嫉妬と欲望と矛盾だらけの感情に繋がっている証拠が欲しくて……
｢なぁ…大橋｣
大橋は立ち止まって一呼吸置いた後に
｢どしたん？丈くん｣
といつもの様なふわふわっとした声で振り返った。
その声にいつの間にか俯いてた俺は顔を上げたがその声とは裏腹な大橋と目が合い俺は狼狽えながらも声を絞り出す。
｢あ…あの…今日さ、俺ん家泊まってくれへん？｣
俺は左手首をぎゅっと握りながら聞いた。
答えは分かっている。
分かっているけど、いつも返事を聞くまでの時間は地球から酸素が消えたんじゃないか？ってくらい息苦しくてたまらない。
大橋は俺の左手の方を見てから少しの間を置いて顔をあげた。
さっきとは打って変わって低く抑揚のない声で淡々と
｢分かった、ええよ｣
大橋がそう答えると風が吹いて微かな金木犀の香りがして、街灯にぼんやり照らされ無表情で冷たく伏し目がちに俺を見つめている大橋の髪が風でふわっとした。
俺に向ける視線は心臓がギュッとなるくらい痛くて苦しいのに……
それなのに…
その姿が泣きそうになるくらいあまりにも綺麗で儚くて、そんな大橋に俺はまた心を奪われて、この瞬間に抱き寄せて俺の中に閉じ込められたならなんて馬鹿げた衝動に駆られる。
大橋は一切表情を変えずに駅の方へ向き直ってまた歩き出した。
その後ろ姿に俺はさっきの時間は幻で隣で笑って、距離感など皆無なほどくっついてきていた大橋が今はふいに手を伸ばしたとしても届かない距離にいる現実を改めて実感する。
だけど…
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作者名：ShuShu | 作成日時：2021年10月16日 7時
