玖拾陸 ページ49
それからは忙しかった。
怪我の回復に数週間をかけ、鬼殺隊の犠牲者達の葬式へ向かい、落ち着いた頃にAの籍を移した。
「これで君も煉獄家の人間だな」
煉獄Aになるのかと彼女が独り言を言っていたのを思い出す。
俺がそれを聞いていたと気付くなり照れて逃げてしまったが、あれはとても愛らしかった。
きっと祝言を上げても恥ずかしがり屋な君は暫く新しい名字に慣れなかっただろうな。うむ、容易に想像がつく。
そうなれば練習するまでだ。俺の名前も呼べるようになっていたからな、きっとすぐに慣れるさ。
そういえば、墓は建てなくてもいいですよだなんて笑って言っていたがそういう訳にはいかない。彼女はたまに突飛なことを言う。
君には同じ墓に入ってもらいたいんだが、駄目だろうか。
「煉獄さん!」
「む、竈門少年か!」
目も腕も失い痛々しい姿だが、その明るい表情を見るに元気でやっているようだ。
「煉獄さん、俺、」
「君のせいではないぞ。君のことを責める人間は一人もいない。気にするな!」
Aのことを負い目に思っていることは察していた。竈門少年は何も悪くない。Aもきっとそう言っただろう。
…鼻のいいこの少年は、俺の感情を読み取っているのやもしれんが。
「竈門少年。君はよく頑張った!自分を誇りに思いなさい!」
「っ、…はい!ありがとうございます!」
後は時間が解決してくれる。何も心配することは無い。
.
.
痣の発現による寿命がとうとうやってきた。
畳の上で死ねるなど、思いもよらなかったな。幸せ者だ、俺は。
A。漸く君に会える。
そっと瞳を閉じた。
「杏寿郎」
俺は、知らない場所に立っていた。
「はは、うえ」
目の前には、母上がいる。その姿は、俺が小さい頃と変わっていなかった。
じわりと滲む涙を堪え呑み込む。
「…母上。俺はやるべきこと、果たすべきことを全うできましたか?」
「ええ、立派にできましたよ」
微笑みかける母上に、胸が熱くなる。
「よく頑張りましたね、杏寿郎」
「母上の言葉があったからこそです」
弱き者を助けることが強き者の責務。
それを胸に刻んだからこそ折れなかったのだ。
「ところで、Aはいないのでしょうか」
Aの姿が見えない。
彼女なら迎えに来てくれるだろうと思ったのだが…。
そう言うと、母上は言い辛そうに口を開いた。
「…Aさんは、こちらに来ていません」
「よもや、ならばどこへ…!」
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Haruka(プロフ) - 煉獄さん推しなのでとても感動しました。 (2021年9月10日 22時) (レス) id: c2932dcf70 (このIDを非表示/違反報告)
ナキサ(プロフ) - 蓬莱寺さん» ありがとうございます!!更新頑張ります!! (2021年1月12日 23時) (レス) id: 9d3d6315a8 (このIDを非表示/違反報告)
ナキサ(プロフ) - すみっコぐらし好きの隅華(仮)さん» すみません、中々時間が取れなくて…!!続きを待ってくれているのはとても嬉しいです、ありがとうございます! (2021年1月12日 23時) (レス) id: 9d3d6315a8 (このIDを非表示/違反報告)
蓬莱寺(プロフ) - 続き気になります。更新楽しみにしてます (2021年1月12日 8時) (レス) id: de353d3df7 (このIDを非表示/違反報告)
すみっコぐらし好きの隅華(仮) - 早く更新して下さい!お願いします!m(_ _)m (2021年1月6日 20時) (レス) id: d6919b39a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナキサ | 作成日時:2020年12月19日 2時