【煉獄杏寿郎】全力で救いたい！【トリップ】弐

漆拾漆 ページ30

「A！」
『煉獄さん？』

雲一つ無い、月が空を照らす明るい夜。
お館様に夜柱として与えられた屋敷で、夜空を眺めていたところに訪問があった。

「夜分にすまない！」
『？いえ…とりあえず上がってください』
「ああ、ありがとう！では失礼する！」

用事はなんだろう、と思うものの、まずは外は冷えるので中に入ってもらう。

お茶を用意しようとしたが、気にしないでくれと止められた。
ちょっとありがたい。他人に飲んでもらうほど美味しく入れられないし。
現代で家事とか全然しなかった影響がね…。

『それで、どうしたんですか？』
「ああ！君に渡したいものがあってな！」
『渡したいもの？』

首を傾げた。
なんだろう？鬼殺関係だろうか？
しのぶさんから毒を預かったとか？だとしたらそう言うだろうしな…。

色々思考を巡らせるが、全く想像がつかない。

すると、煉獄さんは笑顔で、しかしどこか真剣な表情で、私に差し出した。

『…櫛と簪？』

紅と橙、白が美しく混ざった、小さな花たちが映える櫛と簪。

二つとも素人目線でも分かる、高級品だ。

『これは…？』
「よもや、男性から女性へ櫛と簪を贈る意味を知らないか？」

何か意味が？
うーん、ここでも平成生まれの弊害が…。

「櫛には“苦労もあるが、死ぬまで一緒にいてくれ”なんて意味があってな。
簪は色々と諸説があるが…、“綺麗な髪を乱してみたい”という意味だそうだ」
『…え？』
「本当は紅や着物も贈りたかったが用意出来なかった！」

待って、いや待って。
そんな、まるで。

「A、俺は君の事が好きだ！思い返せば、出会った頃から俺は君に惹かれていた」
『ま、まって、』
「“お前は好意が態度に出過ぎだ”と、宇髄や他の柱から散々言われていたが…。
当の本人には中々伝わらなくてな！困ったものだ！」
『ぇ、あ…っ』

展開についていけず、口からは意味の無い母音しか出てこない。
待って、こんなの聞いてない。
こんなんじゃ、まるで。

「俺と、結婚して欲しい」

プロポーズ、じゃないか。

狼狽える私を、煉獄さんはじっと見つめる。

本気なんだろうか、とか。
驚かせようとしてるんじゃ、とか。

そんな考えが全部吹き飛んだ。

それほどまでに真っ直ぐな瞳で私を見つめていた。そもそも、煉獄さんは冗談でこんなことを言う人ではない。

…ああ、どうしよう。
嬉しい。夢じゃないかって思うくらい嬉しい。
このまま飛びついて、“はい”って言いたい。



でも、ダメだ。

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