レトログラード。４【ワートリ】

Affect133 勝利の先にあるもの ページ3

Aside


突き刺した男の、換装が解けた。


「……このまま殺すか？チャンスだぜ」


ずっと戦場で生きてきたからなのか、トリガーでの戦闘で敗北するということと死が、彼の中では近しいもののように感じた。トリガーとは命を奪う武器であること、それをこの男の様子から再確認したような気がした。


「………殺せないよ、私には」


言うと、ピキピキ、と体に亀裂が入った。


『トリオン漏出過多』


さっきの攻撃で、完全にトリオンが切れてしまったらしい。亀裂からトリオンが漏れ始め、そして、私も換装が解けてセーラー服に戻った。サイドエフェクトも元に戻り、一気に情報が流れ込んでくる。


「トリオン切れかよ。残念だったな」


久々に練った戦略のおかげで、倒す前にトリオン切れにはならなかったようだ。


私が親友だった奈那から貰ったトリガーには、ブレードを細くしたり、太くしたり、硬くしたり、柔らかくしたりする力があった。そして強度の段階によって、他にも使える機能があり、それが、ブレードの分離。簡単に言えばアステロイドのブレード版だ。強度が弱いほどたくさん分離することができて、分離したそれらは私の意思で、一本の剣に復元することも、触れずとも自由に動かすことも出来る。つまり割れば割るほど、多くの剣を生み出すことができるのだ。もちろん、反比例的に一本あたりの折れやすさも変化するが。


皮肉にも、ルプスのトリガーとフィデスの能力は、どこか似ていた。


私は、まず、強度を弱めたブレードでルプスの太刀を受けた。そうするとブレードが折れる。ここでルプスは勝ちを確信して油断する。隙が生まれたそのとき、折れたブレード……つまり分離した独立したブレードが、私の意思で剣となりルプスに突き刺さったのだ。


私のトリガーの能力を知らない人間にのみ通じる、強硬策だった。


この動作にもトリオンを消費するから使えて一度だったし、相手に黒トリガーの能力を使われていたら苦しかった。剣だけの勝負に男が乗ってきてくれたこと、挑発に乗りやすくて心理を読み取りやすかったこと、これらの運要素が、正直この勝利の大きな要因ではあると思う。


だけどその上に、私の戦略がちゃんと乗った。だから勝った。


「……トリオンが残ってたとしても、あんたのことは殺さない」
「あぁ？」
「あんたには、尋問したいことが山ほどある」


さあ、勝ちの次にあるものを掴みに行け。

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