レトログラード。４【ワートリ】

Affect142 ページ12

太刀川side


村上と合流したとき、亜桜は既にベイルアウトしていた。そいつは俺が来る前にこの場にいて、そして人型ネイバーの登場で落ちた、と村上が言う。しかし、次に国近から訊いた言葉は。


『亜桜ちゃんが、人型ネイバーと交戦してるみたいなの』


落ちたはずの人間が、現場に復帰して戦っている。それはボーダーのトリガーではあり得ないことで、加えてトリオンがある程度残った状態で落ちたしたときにしか成り立たない状況で。だが俺は二年前のことを思い出して、全てが繋がったような気になった。


Aは、二年前に遠征からとあるトリガーを持ち帰っていたのだ。


ずっと探し続けていた親友"だった"ものを。そして今までずっと大事にしまっていたんだろう。だが人型ネイバーと対峙して、それを動かす決意をした。そうさせるほどの何かが、今亜桜の身に起こった。


「……人型と、どうなったんだ」
「ーー！え、知ってたの」
「国近から訊いた」


亜桜は、自分が人型と戦闘したことを俺が知っていることに驚いているようだった。その表情は以前のような辛そうなものではなく、でも何もかも吹っ切れたという程スッキリした顔でもなかったのだが、何か大きなものを乗り越えたような、そんな表情だった。だから、きっともう亜桜は大丈夫なのだろう、と少しだけ安心した。


「ーー斬ったよ。やっと、前に進めた」


ああ、もう、斬ることが怖くなって太刀川隊から去っていった頃の亜桜Aはどこにもいない。


「……長かったな」
「ごめんなさい」
「謝るなよ」


俺は去っていく亜桜を引き止めることも、また斬れるように支えてやることも、過去に囚われ続ける亜桜の気を楽にしてやることも何もできなかった。ボーダーに引き入れたのは俺だったのに、その後のケアなど何一つできなかった。もう少し優しくしてやれば良かったのかもしれないと思うこともあったが、これが俺と亜桜の距離感として正しいと納得もしている。


そういうのは、俺の役目ではないから。


「A、」
「……！！……はい」


ボーダーに亜桜を連れてきたのは俺だが、剣の腕を磨いたのはあいつ自身だ。自分の隊に亜桜を引き入れたのは俺だが、そこを抜けた亜桜にまた居場所を与えたのは、斬れるように訓練をつけてやったのは、師匠である迅だ。高校生としての亜桜の居場所を守ったのは、出水や米屋だ。俺は亜桜にとって始まりの場所にいても、その続きにはいない。


だか、何もできなかったが、


「……辛かっただろ。頑張ったな」


楽しそうな亜桜の笑顔が帰ってくるのを、本当にずっと待っていた。

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