2.The Menders(7) ページ15
それまで声を殺し、赤子のように泣き腫らしていた彼の動きがぴたりと止まった。
初めて崩れたこの、全く普通の、ただ優しく素直で、最も人間的なこの男の強い芯。
それに追い討ちをかけずに居れる者など、博愛主義の彼からすればまず無い。
だからこそ、古参と謳いながら、一番にマスターの理解者を名乗れるだろう立場にある作家らは出向けなかった。
もし彼らが同じ言葉を吐くとすれば、彼はさて首を吊ることすらあったかもしれない。そう、このカルデアに集まりし彼を支えんとするサーヴァントの皆、その誰もがその命と誇りを託したこの男の"目を閉じる"理由になり得てしまう可能性があったのだ。
故にこそ、"彼が彼を否定せず、彼が他者を否定せず、そしてかつ彼の人間性を保ったまま"周りに在る彼を思う他者というものを自覚させ、そしてまたマスターが前を向くことの出来る切っ掛けたりえるその架け橋として俺が選ばれた。
歴も浅い、これから長く過ごすかもしれないが、しかし互いが過ごした苦楽は短くも濃厚で、二人だけの物だった。
彼の持つ"大衆向けの仮面"を必要としない。数多の中の一人として数えることの出来ない、この巌窟王が、最適だとされたのだろう。
そして俺には、私情を持って彼の支えになれるなら古参の嫉妬を買っても良いという覚悟もまた、ある。
だから聞こう。皆の代弁を。
故に聞こう、お前の弱音を。
「…もう、……もう、戦いたくない、…にげたい、…何も、何も見たくない」
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作者名:らんぱく | 作成日時:2019年11月17日 7時