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剣だった。無骨な物ではない。芸術品のような工芸品のような、美しさを求めた結果生まれたかのような剣だ。刃は異様に薄く、向こう側が透けて見える。全体的な色味や持ち手の装飾が、どこか堕落大海老を思わせる。
そして、布が払われると同時にふわりとその剣は浮かび上がった。
「わっ？！な、何だべ？！」
「堕落大海老さんからのギフトです。書庫を出たくないから、自分の代わりに渡しておいてって。ああ、ギフトっていうのは贈り物です。気に入った読書家さんに司書や司書補が贈るんですよ」
ツヴァイが説明をするが、それどころではない。剣はまるでドンケべラルを守るかのように周囲をふよふよと浮遊している。こちらに攻撃をしてくる様子こそないが、明らかに殺傷能力のある道具が自分の周りを浮かんでいるという状況はそう落ち着ける物ではない。
“そう身構えないでおくれ。ワタシはキミの助けになりたいだけさ”
「うわわっ？！」
堕落大海老の声が響く。どこかにあの怪物がいるのか？右足を抉られた記憶が甦る。周囲を見渡すが、どこにも姿はない。
“ああ、ワタシはこの剣を通じてキミに話しかけているんだ。そうだな……電話のような物だと思っておくれ。ちなみにこの声はキミにしか聞こえないよ”
「……」
ドンケべラルは剣を凝視する。確かに、何となくこの剣の方から声が聞こえてくるような。
「皆さんが戻ってくるまでお待ち下さい。あ、向こうの机にお菓子とドリンクバーがあるので、食べてて大丈夫ですよ！それから掲示板もあるので、もし言伝などがあればそちらにお願いします」
ツヴァイはそれだけ言うとカウンターの方へと戻っていく。仕事があるのだろう。邪魔するのも悪いしと、ドンケべラルはソファにもたれる。
“もし分からない事があるのならワタシに尋ねておくれ。何でも答えてあげるとも。ワタシは優しいからね”
「……申し訳ねえげんとも、信用でぎねえ」
堕落大海老の声にそう返す。自分の右足を奪ったからというのもあるが、何よりその軽薄な口調から邪悪な意思を感じたのだ。
“そうかい。でも忘れないでおくれ、ワタシはキミを見守るし、キミが助けを求めればいつでも助けてあげようともさ”
堕落大海老はそれだけ言って、そして黙った。
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