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ドンケべラルはふと周囲を見渡す。やけに静かだと思ったのだ。その理由はすぐに分かった。
「誰もいねえ。他の皆さんはどごさ行ったんだが?」
「ああ、先に登っておくって言っていましたよ。帰るまでここで待っているよう伝えて、とも」
ツヴァイがドンケべラルの後ろの方を翼で示す。振り向くと、扉がある。ドンケべラルが通ってきた扉だ。あの先は海……そこまで考えて、ドンケべラルは首を傾げた。塔と言っていたけど、塔の中に海があるなんて。どうも不思議な感じがする。本らしき物は見なかったけど、もしかすると海の中に本があったのかもしれない。
「あそごが出入り口なんだね」
「はい。あそこから色んな階層に行けるんですよ」
ふぅん、と相槌を打つドンケべラル。物語の中のような不思議な世界に道理を求めるのも無駄だと悟っていたから。そういう物なのだろうと受け入れる事にした。
「あ、そうそう。預かっていた物があるんですよ。ドンケべラルさんに渡して欲しいって」
「んえ、預がり物?おらに?」
誰からだろうか。リコリス?ミナリア?
ツヴァイがとことこと歩いていく。その先には……カウンターがある。受付の為のカウンターなのだろうか、カウンターの先にはバックルームに繋がっていそうな、質素な扉があるだけだ。その扉にツヴァイが入っていく。そしてすぐに出てきた。手には布で包まれた何かが握られている。
「それが預がり物だが。中身は何なんだが?誰がら?」
「ああ、これはですね」
ドンケべラルの前まで歩いてきた彼女は、そこで預かり物を包んでいた布を取った。
「アイザックさん……堕落大海老さんからです」

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