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「ドンケべラルさん、あたしの好きな食べ物って何だと思います?」
「ええ?……牛乳どが?」
ツヴァイがからかうような口調でドンケべラルへと問いかける。ドンケべラルは突然の問いかけに一瞬戸惑うも、考えた。ツヴァイは……見た目は異形だが、声や振る舞いは若い女性のように見える。それなら牛乳のような優しい美味しさの飲み物が好みかもしれない。
「ぶっぶー。正解はルートビアでしたー」
しかしツヴァイは翼と腕でバツを作った。ルートビアという単語は聞いた事がないが、そういう飲み物があるのだろう。
「ドンケべラルさん、他に何か覚えている事ってないんですか?ほら、例えば……人間関係、友達の事とか」
ツヴァイの問いかけに、ドンケべラルは首を傾げて考えた。人間関係……記憶にない。全くもって思い出せない。友達は勿論、親の事も。
「うーん……なんも思い出せねえ」
何か……あったような気はする。誰かが自分の傍にいてくれたかのような、そんな気がする。とても大切な誰かが、自分の傍にいてくれていたような……でもそれが誰なのか、自分とどんな関係なのか分からない。
「げんとも、いづかきっと思い出せる。そだ気がすんだ」
「……そうですか。いつか思い出せると良いですね」
ツヴァイの声にはどこか悲しみや諦観のような物が滲んでいた。ドンケべラルは彼女の様子に違和感を覚える。どうして彼女はこんなに悲しんでいるのだろうか。
「もしかして……ツヴァイっておらの事知ってるが?」
ドンケべラルの声に、ツヴァイは目を見開いた。そして、すぐに目を伏せる。震えた小さな声で、彼女は言った。
「その問いには、はいとしか答えられません。あたしは……館長のムネモシュネから、読書家の皆さんに関する情報を全て与えられています。ドンケべラルさんの過去についても、知っています」

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