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「あ、皆!」
アリスと鉢合わせしたのは、部屋を10回以上通り抜けた後だった。彼女は床に座り、大きな本を広げている。アリスのすぐ傍には、ドンケべラルが遭遇したのより少し大きい水饅頭がいた。
「アリスさん、そろそろ帰ろうと思ってたんですけど……もしかしてそれ、探してた本ですか?」
「うん!
ドンケべラルはアリスの方へと歩み寄り、本を覗き込もうとして……ふと思い出した。そういえば、自分は彼らがどんな物を求めてこの塔へやって来たのか知らない。アリスはどんな物を求めているのだろうか。
「なあ、アリスは何求めでこごさ来だんだ?」
「んー……」
アリスは本から顔を上げないまま言う。
「よく分かんない。アリス、ただ知らない事を知りたいだけだもん」
ドンケべラルはふうんと頷いて、次に
「私のご先祖様、有名な読書家だったらしいんですよ。エルデ教の司祭だったとか……第8聖者のエリヤって聞いた事ありません?」
「恵みのエリヤでしょ?沢山の人を奇跡で助けたっていう」
「それで、折角だから知ってみたかったんです。ご先祖様の事とか、ご先祖様が登った塔がどんな場所なのか。それに何より……楽しそうじゃないですか、こういうの。死ぬなら普通の日常をずーっと繰り返して死ぬより、冒険をして死んでみたかったんですよね」
やっぱりこんなところに来るから、冒険が好きなのだろうか。他の2人もそうなのだろうかとドンケべラルは考えながら、アリスの本を覗き込む。
『そうしてムネモシュネは図書館を創り上げた。全ての世界の全てを納めた箱庭を。全てが存在するこの図書館で、全てを手にした彼は眠っている』
絵本のようだ。開かれている最後のページには、その文章と、眠っている人間が描かれている。その人物は黒い髪と浅黒い肌をしていて、男性にも女性にも見える。
「塔は全てを創った神様が眠っているんだって。どんな神様なんだろうね?アリス、会ってみたいなぁ」

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