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「ただいま。ドンケべラル君は……ああ、もう帰ってきていたのか」
うとうとと眠ってしまったアリスの身体にミナリアが上着をかけてやっていると、ようやくリコリスも帰ってきた。口元についたお菓子の欠片を拭いながらドンケべラルは挨拶代わりにリコリスに手を振る。口いっぱいにお菓子を頬張ったせいで声が出せないのだ。
「おかえり〜リコリス。スクカちゃんと買っといたよ」
「ありがとう。僕もそれ、頂いても?」
「勿論」
リコリスもソファに座り、お菓子を食べる。ドンケべラルは口の中のお菓子を咀嚼し終え、飲み下す。
「リコリス、あの扉の先には他にどだ書庫があんだ?」
初めにいた場所は海のど真ん中。先程訪れたのは真っ暗な部屋。どちらも本を納める為の空間とはまるで思えない場所だった。
リコリスは頷いて、鞄から本を取り出す。手で掴んでではなく、魔法で浮かばせて。本はドンケべラルの膝の上に着地した。そのまま動かなくなる。
「僕は塔に来る前から塔について研究しててね。そこに載せているのが塔の全てではないだろうけど、それでも役には立つと思うよ」
塔は確か、すごく長い年月放置されて、本来の目的を忘れ去られたらしい。そんな塔の事を調べるなんて相当変わった人なのだろうなとドンケべラルは思った。とりあえずページを捲ってみる。『汎用型文明蒐集装置テルミナス』『分かち難い双子』『蒼白の菌類』……姿の予想図だろうか、奇妙なイラストと共に説明が箇条書きされている。
パラパラと斜め読みして、やがてドンケべラルはあるページを開いた。
『堕落大海老』
『・読書家を唆し、自分と契約をするよう誘導する。契約の内容は多様だが、代償は共通して自分に捕食される事』
『・瞳クラゲの書庫にしか出現しないが、瞳クラゲと協力関係にあるわけではないらしい』
『・ギフトの譲与条件は対象の味?』
「……これってなじょんして調べだんだが?」
「昔の読書家が記録として遺していたのを収集したり、脳細胞を復元して記憶を抽出したりかな。意外と死後の記憶秘匿を申請してる人っていないしね」
さらりと恐ろしい事を言うリコリス。塔の研究の際に何か人道に反した事が行われているような気がしたが……ドンケべラルは言及しない事にした。自分の思う道徳は、リコリスの道徳とは違うかもしれない。そもそも自分は記憶喪失なのだ。何も知らないのに一丁前に説教をするのは違う気がする。

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