19 ページ19
「うわっ」
いつの間にか後ろに静寂な淀みがいた。全く足音がしなかったのに……ドンケべラルは身を強張らせる。悪魔の口を自分の傍に引き寄せる。もし襲いかかってきたらいつでも斬る事ができるように。
「ここに来てくれる人達は、皆死んでしまった。他の司書様に殺されちゃうんだ。そんなの嫌だよ。僕は誰にも死んでほしくないのに……」
“違うよ。こいつはね、誰かを支配し続けないと我慢ならないんだ。誰の事も信用なんてしちゃいない。もし本当に誰かを信じる事ができるのなら、少しの間離れていても帰ってくると、自分の元を離れる事を許せるだろうにね。そうしないって事は結局そういう事なんだ。臆病で惨めで愚かだよねぇ”
悪魔の口の嘲り。ドンケべラルは一旦悪魔の口の言葉を無視して、尋ねた。
「な、何だべ。何の用がある？一応言っておぐげんとも、おらはこごさ留まるつもりはねえぞ」
静寂な淀みは……顔はないが、悲しそうにしているように見える。ドンケべラルは居心地が悪くなって、尋ねた。目の前の司書に悪意がない事は分かったが、その声からは歪んだ妄執が感じられた。
「おらは帰る。出口教えでぐれ」
「まだ本を読んでもいないのに、もう行っちゃうの？……ここから2つ目の角を左に曲がって、3つ目のドアを開いて。でも、また来てね」
ドンケべラルは頷いて、静寂な淀みに背を向ける。早く脱出しよう。あの司書の気が急に変わって、骨董品に変えられてしまうかもしれない。それに……あの司書は、本をまだ読んでいないのかと言っていた。どこからか監視していたのだろう。
ゆらゆらと揺れる光がぼんやりと床を照らす。やがて扉が現れた。この薄気味悪い空間を一刻も早く去りたいと、ドンケべラルは扉を開けて飛び込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
