キス、壱萬圓。

06. ページ6

〆．



「……………………」



「……………………」



沈黙の車内。



「ドライブデート、ええな」



「デート……」



「これもお金渡すから」



「……………あのさ」



藤井くんの思考回路は全くわからないけれど、一つだけ聞いておかなくちゃ。



「なんで藤井くんは、そんなに私にお金を受け取らせたがるの？」



「……………え、」



すごく当然の質問をしたつもりなのに、藤井くんは黙ってしまう。



「え………と？」



片手で頬をかきながら、稀に見るあほ面を晒す彼。



へぇ、そんな顔もするんだ。



……じゃなくて。



「藤井くん、価値があるって言ってくれたし、それはいいんだけど……これっていい話だと思わない？



商品を手に入れるのに代金払わなくていいって言ってるんだよ？ね？だからこれは、」



「あかん！」



「っ！？」



藤井くんが急に大声を出すから、思わず怯む。



「あ、ごめ、怖がらせて……。いやでも、とにかくもらってほしいねん。そのお金はもうAのもんで、自由に使ってくれてええから」



挙動不審な藤井くんは、なぜか知っていたらしい私の家の前に車を停める。



いつ見てもボロいアパートだ。家賃安いからいいけど。



「…………私が、もらえばいいのね？」



「……………！そう！そう！」



首取れるんじゃないかってくらい、ぶんぶん頷く。



なんでそんなに渡したいのかな。このお金を持っていたら藤井くんに不幸が訪れるのかも。



「じゃあ……ありがとう、いろいろと」



送ってもらったし、一応。



「最後に」



「？」



藤井くんが急にそわそわしたから何事かと思えば、



「…………っ！？」



綺麗な顔がすぐ目の前に……。



「……………キスは一万円、やから」



デート代と合わせて三万、とだけ言い残し、彼は去っていく。



合計103万を持った私は、



耳を赤くした藤井くんの後ろ姿を、呆然と見送っていた。



〆．

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