キス、壱萬圓。

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〆．



「最近一緒におらんなぁ？」



「しゃあないやん………A、ずっとバイトやねんから」



私の話……？



つい、聞き耳を立ててしまう。



「まだバイトしてんの、あの子」



「んん………おかしいよな？」



「俺が提案してやったのに！あの領収書のやつ！」



「お金渡したら、ちょっとは生活楽になるかなぁ思うてんけどな」



「…………………は？」



小さく声が零れる。



「キス一回で一万やろ？一日働いて稼げる額を一瞬でもらってんのに………。足りひんのかな？なんか可哀想やな」



「ほんまに、可哀想や。貧乏脱却計画、全然上手くいってへん………」



…………鈍器で頭を殴られたくらいの衝撃。



可哀想？



貧乏脱却計画？



藤井くんは、そんなつもりで私にお金を渡してたの？



「……………最低」



見下してたんだ。



ずっと、ずっと。



私のこと、貧乏人だって。可哀想な奴だって、笑ってたんだ。



そこにもちろん恋愛感情なんてなく、



ただ同情していただけだったんだ。



私は一度家に帰り、今まで置いておいたお金を全て持って、また大学へ戻った。



講義はもう始まっていたけれど、彼は後ろの方の席に座るし、人が多くて私語も多いから誰も深く気にとめないだろう。



「A、」



久々に私から近寄ったからか、笑顔を見せる藤井くん。



私の口角は上がらない。



「…………これ、返す」



「え？…………なんで、使ってへんかったん？」



「使うわけないでしょ。馬鹿にしないで。……………もう、私に関わらないで」



「A………っ？！」



彼の伸ばした手は宙を切る。



さっさとこの場から逃げ出すつもりだったのに。



「きゃーっ？！」



「だ、大丈夫ですか！？」



こんなところで、



私の体は動かなくなってしまった。



〆．

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